日経クロストレンドのアドバイザリーボードの面々が、「ポスト平成」の注目キーワードを占う本特集。第1回は、敏腕マーケターとして知られるイトーヨーカ堂の富永朋信氏、クー・マーケティング・カンパニーの音部大輔氏、アンテナショップ「カルビープラス」などの新しいBtoC事業を手掛けるカルビーの鎌田由美子氏が、2019年を語る。

写真/ShutterStock

 注目キーワード 
「便利さ」と「気持ち良さ」の相克

イトーヨーカ堂 営業本部 本部長補佐
富永 朋信氏

 2019年固有のキーワードというより、もう少しロングレンジの潮流だと思うのですが、私は「『便利さ』と『気持ち良さ』の相克」に注目したいと考えています。

 タップ数やクリック数ができるだけ少なくなるように設計されたUI(ユーザーインターフェース)や、顧客が買いそうな商品の先回りリコメンデーション。これらは疑いなく便利なのですが、必ずしも気持ちの良いものではないと思います。そして便利なことよりも気持ち良いことの方が大切なのではないか、とも。

 では、気持ち良さとは何でしょうか?

 私が考えるに、「直感的に操作できること」と「顧客が自分の意志で操作していることを実感できること」の2つがその要件なのではないでしょうか。前者はD.A.ノーマンの名著『誰のためのデザイン?』にあるようなメンタルモデルとUIの一致や、UI上のフィードバックを徹底する、といったこと。後者は勤め人の幸せのドライバーは年収やポジションではなく自己コントロール感の有無だ、というデータを見て着想したことです。

 これでいくと、例えば「便利さの象徴である自動運転がどうあるべきか」は興味深い問いになります。便利さを軸に設計すれば、目的地とルートの選好を音声入力したらあとは全部自動というUIになるでしょう。しかし直感性と自己コントロール感、すなわち気持ち良さを軸に設計したら、「どちらに曲がるか」「どのレーンを走るか」「何キロくらい走るか」「東名高速ではなくやっぱり中央道で行こう」といったような選択は随時ドライバーが行い、クルマはそれが安全に行われるようにアシストする、という思想が必要になるように感じられます。

 世に問われていく新しい商品やサービスに「気持ち良さ」を軸にした思想が込められることが一般的になると、それが商品やサービスを選ぶ際の大事な要件として認識されるようになり、大げさな話、消費者が過ごす日々の時間の質が少し上がるかもしれません。

 注目キーワード 
「情報検索コスト」と「人間回帰」

クー・マーケティング・カンパニー 代表取締役
音部 大輔氏

 直感的・感情的なものを除けば、プロフェッショナルとしても消費者としても、情報が多すぎるのは情報が足りないのと同じくらい判断しづらいものです。情報氾濫と複雑化が続く環境下では、「情報検索コスト削減」につながるサービスは重要度が増していきそうです。AI(人工知能)サポート、インフルエンサー、ソーシャルメディア、サブスクリプション、クラウドなどは結果的に情報検索コストの削減につながっています。CRM(カスタマー・リレーションシップ・マネジメント)、CDP(カスタマー・データ・プラットフォーム)、EC、MA(マーケティング・オートメーション)、あるいはブランドマネジメントに関する諸施策も、そうした進化をたどるかもしれません。ならばいっそ、理性的な判断ではなく直感的・感情的な判断による、という考え方が出てくることも同根であるだろうと考えます。

 同時に、AIが様々な形で生活や仕事に浸透することで、プロフェッショナルである人間がなすべきことについて議論や理解の機会が増えていきそうです。消費者を表す呼び名はいくつかありますが、そもそも「人間である」という視点の重要さも増してくるでしょう。

 この「人間回帰」視点は、プロフェッショナルとしての情報検索コストを下げられるかもしれません。つまりブランドが人に何を提供するかという関係だけでなく、人と人の間にブランドがどう作用するかという関係を意識することで、技術の進歩や潮流の変化を俯瞰し、競争力のある洞察が生まれそうです。