駅徒歩10分も「訪日客にとっては『渋谷から徒歩圏』」

 同ホテル支配人の木村陽氏は、「東京を訪れるクリエーターやアーティストなどに無料で部屋を提供する代わりに、 滞在期間中に作品を残してもらったり、展示会やライブを共同で開催したりすることも検討している」と話す。つまり、あの白い空間は描かれる前のキャンバスということらしい。もし仮に全室が異なるアート作品で彩られるとしたら、確かにアート好きにはたまらない、唯一無二のスポットとなるだろう。

 「ただ宿泊するだけならビジネスホテルのほうが便利かもしれない。だが、マスタードホテルがターゲットにしているのは訪日観光客の中でも情報感度が高く、カルチャーやアートに興味がある層。『あのホテルに行けば東京のアートやカルチャーの最先端の情報が手に入る』という発信基地にしたい」(木村氏)

 ほとんどの部屋にテレビを置いていないのは、自ら進んで情報収集をする傾向が強く、テレビをそれほど必要としていない層をターゲットとしているため。その代わり、ホテル側から「生きた情報」を伝えられるよう、多言語に対応できる外国人スタッフを多くそろえているとのこと。「何でもとりあえず客室に置く」のではなく、本当に必要なものを取捨選択しているということだろう。

部屋の照明は落ち着くように明るさを抑えているが、廊下はかなり明るい。まるでSF映画のワンシーンを想起させる不思議な雰囲気だ
部屋の照明は落ち着くように明るさを抑えているが、廊下はかなり明るい。まるでSF映画のワンシーンを想起させる不思議な雰囲気だ
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 気になるのは、同ホテルが渋谷駅からかなり離れているということ。遊歩道が整備されているとはいえ、渋谷駅南側エリアは夜になるとさびしい通りもあり、カートを引いて訪れる宿泊客にとってはハードルが高いのではないだろうか。だがTGP代表取締役の関口正人氏は、そうした不安は感じていないという。「渋谷のホテルのニーズは非常に高まっているが、供給が追い付いていない状態。渋谷ストリームの開業によって、渋谷駅南口はハチ公口ともコンコースでつながり、移動がストレスフリーになった。これから訪れる訪日外国人は、『渋谷から徒歩圏に利便性の高いホテルができた』というイメージでとらえるだろう」(関口氏)。

 関口氏はマスタードホテルの宿泊客を月間約6000人と見込んでいる。宿泊客以外も含めると1日に500~1000人が付近にある恵比寿、代官山、渋谷の3駅から同施設を往来すると見ている。「これは私鉄沿線の小さな駅の乗降客に匹敵する人数。この新たな人の流れによって、渋谷駅南側エリアが開けるのは間違いない」(関口氏)。

 同ブランドのホテルは、現在さらに2館を計画中。2館目は浅草の雷門から徒歩1分圏内で、128床のホステル。今後も都内を中心に多店舗展開をしていく予定だ。それぞれの地域性や宿泊スタイルによって建物のデザインを変えていく方針だが「街の隠し味でありたいというコンセプトは大事にしていきたい」(木村氏)という。

ロビーのベンチ周辺には鉄道をモチーフとしたデザインが施されている
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ホテル1階に併設されているオールデーカフェ&レストラン「Megan-bar & patisserie(ミーガン バー&パティスリー)」。チェックイン時に同店で使える税込み1000円分のミールチケットが提供される。チケットは営業時間内であればいつでも利用可能(チェックアウト前まで)
ホテル1階に併設されているオールデーカフェ&レストラン「Megan-bar & patisserie(ミーガン バー&パティスリー)」。チェックイン時に同店で使える税込み1000円分のミールチケットが提供される。チケットは営業時間内であればいつでも利用可能(チェックアウト前まで)
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(文/桑原恵美子)