女子がカップ麺を食べる社会現象を起こしたい

――「ラタトゥイユ」と「バーニャカウダ」は、どちらも女性が好きな料理。それをカップ麺にしたところがすごいですね。

ズナイデン:「ラタトゥイユ」と「バーニャカウダ」は女子会の人気メニューです。女性に食べてもらう新しいカップ麺を作るには、女性のインサイトを理解していたほうがいい。チームづくりにプライオリティを置きました。当時、社内のブランドマネージャーは全員男性だったので、女性のブランドマネージャーを新たに採用しました。かといって、女性だけのチームは考えが偏ってしまうので、男性にも入ってもらってバランスを取りました。

 マーケットリサーチや分析など、いわゆるロジックの部分を左脳で考えて、仮説を立てながらコンセプトやパッケージを決めていきますが、最終的に大事なのはやはり感性なんです。見え方だったり、呼びかけるメッセージの音の響きだったり、私たちはシズルと呼んでいますが、パッケージに載せる商品の写真から出てくる雰囲気であったり、パッケージデザインの色合いなど、いろいろなものを組み合わせてどう仕上げるか。女の子たちに「わぁ、かわいい」と思ってもらうことが重要です。

――さじ加減が難しそうです。苦労された点はありますか。

ズナイデン:お見合いと同じで、ぱっと見たときにどれだけ相手の心をつかめるか。女性向けという新しい市場に出すので、ある程度の“登場感”も必要です。「これだ」というものを探し当てるために、担当のブランドマネージャーは千本ノック状態だったと言っていますが、ものすごい量のオプションを作りました。メーキャップ商品のキービジュアルを作るときと似ています。

 同じタレントさんに同じようなメイクをしても、どういう表情で写真を撮ってどんなコピーを置くかで印象が全然違ってくるんです。見た人が「ふーん」で終わるか、「わぁ、かわいい」となるか、ちょっとした機微で分かれます。考えて考えて、突き詰めていって、最終的に感覚のベルが“ピン!”と鳴るものを選ぶ。大変なことですが、絶対に成功させたいというパッションがあり、労を惜しまず、そういったプロセスを経て誕生したものは、商品としてのオーラが違います。

――俳優の斎藤工さんを起用したCMが話題になりました。

ズナイデン:斎藤工さんにかぶっていただいた野菜のかぶりもの「ベジヘッド」が、強烈なビジュアルとして印象に残ったようです。CMのほか「みつめてLight+(ライトプラス)」というウェブサイトを立ち上げました。湯を注いで3分待つ間、斎藤工さんが話しかけてくれるんです。ベジヘッドをかぶった斎藤工さんと写真が撮れる仕掛けも用意しました。こうしたものがSNSで自動的に拡散していく。商品だけでなくコミュニケーションのアンバサダーとして斎藤工さんに出ていただけたのがよかったと思います。

――新ブランドではなく、カップヌードルブランドにした理由を教えてください。強いブランドを冠したまま新しさを出すのは難しいのではないでしょうか。

ズナイデン:女子がカップ麺を食べるという社会現象を起こしていきたいので、トップブランドであるカップヌードルでやるべきだと思いました。カップヌードルは王者としての風格がありますから。カップヌードルにとっても、スポットやサブブランドでいろいろな味を提案していくことは、ブランドのエネルギーを保つために必要だと考えます。

カップ麺を食べない女性に「カップヌードル」が売れた理由は? 日清食品 ズナイデン房子氏(画像)
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 カップヌードルという枠組みのなかで新しいお客さんにアプローチできるサブブランドとしてのパーソナリティをどう出していくのか、そこはかなり考えました。ロングセラーブランドとしての強みを生かしながら、ターゲットマーケティングするときは、思い切ってエッジを効かせたほうがいい。ターゲットを広く取ろうとせず、女性なら女性、若年なら若年にターゲットを絞って、そこに刺さるものをやっていくんだと、まず“腹決め”することですね。その人たちの深層心理を読んで、鋭角的にやるのがひとつのポイントです。

――深層心理を読む方法はあるのでしょうか。

ズナイデン:「今の女性はこうだ」「若い人たちはこうだ」という社会の定説に惑わされてはいけません。表面だけ見てマーケティングすると、見誤ることになります。私は女性をずっと見てきました。食べ物以外のカテゴリーにも目を向け、たくさん観察し、彼女たちが発信することに触れていると、だんだん分かってくるんです。絶対音感みたいな感じで。そうすると当たります。常に消費者に対してどれだけ興味をもっているか。そこを怠けていると音感がにぶくなり当たらなくなります。

――潜在的な深層心理を探り当てるのは、マーケッターとしての腕の見せどころ。最終的には肌感覚だったりするんですが、詳しくは会場でお話しいただければと思います。

(聞き手・構成/辛智恵、写真/稲垣純也)

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