松坂桃李が主演の時代劇映画『居眠り磐音』が2019年5月17日に公開される。メガホンをとるのは『超高速!参勤交代』(14年公開)で“ユニーク時代劇”というトレンドを作った本木克英監督。実は今、映画界では時代劇がブームで、若者を引き付けている。その理由とは?

2019年5月17日に公開される「居眠り磐音」(2019映画「居眠り磐音」製作委員会)
2019年5月17日に公開される「居眠り磐音」(2019映画「居眠り磐音」製作委員会)

 『居眠り磐音』は、佐伯泰英原作の「平成で最も売れた時代小説」として知られ、シリーズ累計2000万部を突破した大ベストセラー作品だ。これだけを捉えると今回の映画化は、「大ヒット小説を実写化しただけのよくある話では?」と思われるかもしれない。だが、制作陣に話を聞くと、若者を取り込む要素をふんだんに取り入れた時代劇ブームの先頭を走る作品であることが見て取れる。

“ユニーク時代劇”がヒットした理由

 これまで時代劇のファンは高齢者が圧倒的に多かった。それもそのはずで、最近は地上波で時代劇はほとんど放送されなくなり、若者にはどんどんなじみがなくなってしまっていた。逆を言えば、「高齢者にターゲットを絞れば手堅いコンテンツ」(日本テレビ事業局映画事業部の藤村直人プロデューサー)だった。

 そこに風穴を開ける映画が公開された。『超高速!参勤交代』だ。幕府から無理難題を突き付けられた小藩の藩主が、ユニークな知恵で立ち向かう様子をテンポよく描いた作品で、14年6月に公開されるや普段時代劇を見ない若い層、特に女性の観客が急激に増え、興行収入は15.5億円に上った。16年には続編が公開され、そちらも興行収入11.6億円のヒットを記録した。

 『超高速!参勤交代』はこれまでの時代劇にはなかった独特な設定から「ユニーク時代劇」と呼ばれ、『殿、利息でござる!』(16年公開)など、その後も多数制作されるようになった。その結果、映画界は約10年ぶりの時代劇ブームとなり、2010年に7本の時代劇映画が公開されて以降、年に3~4本にとどまっていたが、19年は10年前を上回る9本もの時代劇が公開される。『映画刀剣乱舞』(1月公開)、『サムライマラソン』(2月公開、佐藤健主演)、『引っ越し大名』(8月公開、星野源主演)、『決算!忠臣蔵』(11月公開、堤真一&岡村隆史主演)など、実に半数がユニーク時代劇となった。

 藤村氏は『超高速!参勤交代』のヒットについて、「これまでルーツとなる史実があることが多かった時代劇で、エンタメ性に振った独自性がいい意味で衝撃を与えたのだろう。若者や女性が単純に新鮮なエンターテインメントとして楽しんだ結果だ。タイトルがキャッチーで広がりやすかったので、(若い層が)私たちも見ていいんだと思ってもらえたのでは」と分析する。

 本木克英監督自身は『超高速!参勤交代』を撮った理由について、「これまでテレビドラマでは正統派時代劇を手掛けてきた。だが、地上波放送がほとんどなくなり、時代劇に触れる機会が少なくなっていた。正統派時代劇は若い観客にとって、敷居の高いものという先入観を与えており、映画としては成立しにくかった。そこで新しい世界観の時代劇が作れないかと考え、『参勤交代』を撮ったが予想以上にヒットした」と語る。

 ユニーク時代劇という新たなジャンルを打ち立てたことについては、「その後、同じ傾向の時代劇コメディが何作もできて、『参勤交代』を作ってよかったと思った。あの時の方針は間違っていなかった」と手ごたえを明かす。

「超高速!参勤交代」で新しい時代劇の形を提示した本木克英監督
「超高速!参勤交代」で新しい時代劇の形を提示した本木克英監督

本格時代劇で若者に挑戦

 3年ぶりに本木監督がメガホンを取った時代劇が『居眠り磐音』だ。だが、今回は自身がつくったユニーク時代劇のトレンドの延長ではなく本格時代劇。とはいえ、本木監督と藤村氏は若者や女性を引きつける下記の3つの策を盛り込んだ。

1.純粋なラブストーリーを描く
2.女性目線も描く
3.若者に人気のキャストをそろえる

 本木監督いわく、居眠り磐音は、「伝統的手法に則った時代劇だが、古臭いイメージは払拭できた。ラブストーリーとして、若い層にも楽しんでもらえる」と自信を見せる。その理由の根拠として、本木監督も藤村氏も口をそろえるのが、時代劇はラブストーリーを演出しやすいという点だ。スマホやSNSはおろか、電話すら出てこない時代劇では、連絡を取るのも一苦労。だからこそ、現代劇なら“LINEすればいいじゃん”という突っ込みが聞こえてしまいそうな離れた空間にいる2人の心情を描きやすい。「喪失感や純愛、一途さ。会えない時間が愛を育てるという関係をストレートに伝えられる」(本木監督)。

 「女性のキャラクターがとても魅力的に描かれている」(藤村氏)というのも、原作から引き継ぐ居眠り磐音の大きな魅力。これまでの時代劇では男性目線でストーリーが展開することが多かった。これは若い世代の価値観とは相いれない部分もある。「現代にふさわしい時代劇は、女性側の視点も丁寧に描く必要がある。本作でいえば、許嫁の奈緒の兄を斬ってしまった磐音はけじめをつけるべく脱藩するが、奈緒の気持ちは全く違うものであった。そのすれ違う気持ちの切なさを時代劇を通じて感じてほしい」(本木監督)。

 キャストも若い世代になじみのある俳優陣が選ばれている。松坂のほかにも木村文乃、芳根京子、柄本佑、杉野遥亮など若手の人気俳優が顔をそろえた。若い層が登場人物に感情移入しやすいはずだ。加えて、佐々木蔵之介、谷原章介、奥田瑛二、中村梅雀、柄本明など、どの世代にもなじみのある役者も登場する。主題歌をMISIAが担当したことも話題を呼んでいる。

 『居眠り磐音』で初めて時代劇のプロデューサーを務めた藤村氏は、「テレビ局が時代劇映画を作ることで、(うまくヒットにつなげることができれば)今後はテレビドラマ化も視野に入れられる。若い世代がテレビドラマを通じて時代劇に触れる機会を増やして、時代劇を親子3世代で見てもらえるコンテンツに育てたい」と今後の展開を語った。

日本テレビ事業局映画事業部の藤村直人プロデューサー
日本テレビ事業局映画事業部の藤村直人プロデューサー
主人公・磐音を演じる松坂桃李。本木克英監督は「時代劇での新たな主役を担える逸材」と絶賛する
主人公・磐音を演じる松坂桃李。本木克英監督は「時代劇での新たな主役を担える逸材」と絶賛する

(写真提供/2019『居眠り磐音』製作委員会)