花王が2019年5月に投入する新ヘアケアブランド「and and」は、ヘアケア剤では同社初の高価格帯商品。強気の裏にあるのは、感性科学を用いた香りのカスタマイズ。気分に合わせた香りで、シャンプーとトリートメントを選べる。狙うのは自己実現ニーズの高い20~30代のミレニアル層だ。

花王の新ヘアケアブランド「and and」のシャンプー&トリートメント。想定価格は各1400円(編集部調べ)
花王の新ヘアケアブランド「and and」のシャンプー&トリートメント。想定価格は各1400円(編集部調べ)

セルフコーディネートの定着とヘアケア剤の画一性

 and andは1400円以上のハイプレミアム価格帯の商品。花王がこの価格帯に目を付けたのには理由がある。現在ヘアケア市場では高価格帯商品の台頭が著しく、プレミアム価格帯(800円以上)とハイプレミアム価格帯を合わせると、売り上げの約半数を占めるという。コアターゲットである20~30代のミレニアル層を中心に、「こだわりをもって自分にふさわしいものを選びたいという自己実現ニーズの高まりが背景にある」と、花王ヘアケア事業部シニアマーケターの仲田実沙希氏は分析する。

 花王が独自に調べたところ、迷いながら選ぶ楽しみや、自分らしくコーディネートする喜び、オリジナルの組み合わせに対する愛着などが、高価格帯でも対価を払うという消費行動に結び付くことが分かった。実際にリップを色と容器の組み合わせで選んだり、色やロゴを選べるバッグだったり、「自分だけのカスタマイズができるセルフコーディネートが、多様な分野で市場に定着している」と仲田氏は指摘する。

 ところが、ヘアケア分野ではシャンプー、トリートメント、コンディショナーそれぞれ同じ香りやボトルという、画一的な提案しかしてこなかったという。仲田氏は、「ボタニカルやノンシリコン一辺倒で、どの商品も同じに見える、選ぶのが楽しくない、という声が多かった」と、ヘアケア市場が抱えていた課題を明かす。

花王ヘアケア事業部シニアマーケターの仲田実沙希氏
花王ヘアケア事業部シニアマーケターの仲田実沙希氏

初めて感性科学を用いて開発

 そこでand andでは、シャンプーとトリートメントを香り別に3種類ずつ用意し、9つの組み合わせから選べるようにした。「トップスとボトムスを組み合わせるように選んでもらう、新発想のヘアケアブランド。選択プロセスの中で、自分でも気づいていない自分らしさに目覚めてほしい」(仲田氏)と言う。

 面白いのはネーミングだ。シャンプーは「ゆったりと」「気ままに」「静かに」という状態を表す言葉を、トリートメントは「はしゃぐ」「思い立つ」「ときめく」といった動作を表す言葉を用いている。合わせると、「ゆったりとときめく」「気ままにはしゃぐ」など組み合わせごとに物語性を帯びる。自分らしいストーリーを作ってほしいという、セルフコーディネートを念頭に置いた発想だ。

 それぞれの言葉には、根拠がある。花王は2004年から人が心地良いと感じる気分(快適感)を研究し、日本人の快適感は16の因子に分類できることを解明した。さらに独自に開発した心理質問用紙を用いて、特定の生活場面における快適感をスコア化する手法で、特許を取得している。

特許技術で日本人の快適感は16因子に分類できることが分かった
特許技術で日本人の快適感は16因子に分類できることが分かった

 今回はヘアケア剤で初めてこの手法を用いて、シャンプーとトリートメントを使用する場面で求められる気分を分析した結果、「シャンプー中はリセット方向の気分が、トリートメント中にはリチャージ方向の気分が求められるという結果が得られた」と、花王感覚科学研究所主任研究員の綾木美城氏は説明する。

 リセット方向の因子は「気楽・安静・満足」、リチャージ方向は「活気・やる気・ときめき」で、それぞれに当てはまる言葉を選んだ。

 感覚科学研究所は従来の香料開発研究所と感性科学研究所を統合し、19年に新設された。花王によると、感性科学とは生活のさまざまな場面において、五感を通じて生じる多彩な感情に科学的にアプローチする本質研究を指す。新ブランドでは、「感性科学に基づいて分析された快適な気分を感じる香りを調合し、それぞれの香りに天然アロマを使用した」(綾木氏)と言う。データを基にこれまでの経験値を生かし、感覚的に香りの微調整をしたという。

 ヘアケアの機能自体はすべて同じなので、気分や好みで香りを選べばよい。消費者はそれほど迷うこともないだろう。「シャンプーはノンシリコンでもきしまず柔らかな手触りにした。トリートメントは内部と表面からダブルでアプローチしたことで、つやとなめらかさ、弾力を実現できた」(綾木氏)。

 シャンプーとトリートメントを「香りの組み合わせで選ぶ」という、ありそうでなかったコンセプトが、こだわりのある“自己実現女子”の欲望を満たせるか。高価格帯に踏み出した新ブランドの成否は、そこにかかっているといえるだろう。

発表会には人気スタイリストの風間ゆみえ氏、小山田沙織氏、山脇道子氏らがそれぞれ組み合わせから着想を得たスタイリングを発表した
発表会には人気スタイリストの風間ゆみえ氏、小山田沙織氏、山脇道子氏らがそれぞれ組み合わせから着想を得たスタイリングを発表した

(画像提供/花王)