江崎グリコの「バランス食堂」は、総菜の素で“手抜きをしている”という罪悪感を取り払うために、献立を考えるときに「ぜひやりたいが、やっていないこと」を実現させた。バランス食堂が目指す価値ある時短とは?

江崎グリコが販売する総菜の素「バランス食堂」シリーズ
江崎グリコが販売する総菜の素「バランス食堂」シリーズ

 少ない材料と短い調理時間で簡単におかずが完成する総菜の素は、忙しい現代人の食卓には欠かせない。一方、総菜の素のおかずだけでは、小さな子供には味が濃すぎたり栄養の偏りが起きやすかったりする。

 江崎グリコが2019年2月に発売した「バランス食堂」は、おかず一品とごはんだけで、タンパク質、脂質、炭水化物の3大栄養素のバランスが整うという。就学前の子供がいる30~40代の共働き家庭がメインターゲットで、塩分も控えめに設計されている。

平日の夕食は20分で準備する

 「若い共働き家庭では、本当は子供のために毎日手作りしたいが時間の余裕がない、と悩む人が多い」と、江崎グリコ食品マーケティング部の佐藤愛矢子氏は話す。佐藤氏によると、小さな子供がいる共働き家庭が平日の夕食の準備に割く平均時間は20分。仕事を終えて子供を迎えに行き、買い物を済ませて料理して食べさせ、風呂に入れて寝かしつける――。目まぐるしい毎日で省けるものは省きたいと思うのは自然なことだろう。手をかけて作ることを良しとした時代から、いかに効率的においしく作るか、料理への意識は変化している。

佐藤愛矢子氏 江崎グリコ マーケティング本部 食品マーケティング部
佐藤愛矢子氏 江崎グリコ マーケティング本部 食品マーケティング部

 料理に対する意識の変化の例として、佐藤氏はカレーを挙げる。「昔はカレーこそルーを入れて煮込むだけの時短料理の代表だった。しかし、煮込んでいると20分には収められない。今や“手のかかる料理”になっている。実際に(調査会社の)インテージの調査によると最近はルーよりもレトルトカレーのほうが売れ行きが伸びている(注)」(佐藤氏)という。

一皿でも栄養バランスが整う

 総菜の素の市場も07年から17年の10年間で約17%成長している(インテージ調べ)。

 市場は拡大しているが、総菜の素を使うことを「手抜き」と捉えて罪悪感を抱く人は増えている。「調査のためにご家庭にうかがうと、(総菜の素の)パッケージが隠すように捨てられている」(佐藤氏)という。

 さらに、これまでの総菜の素は栄養バランスの偏りにも問題があった。「一般的な総菜の素ではタンパク質が不足しがちで、反対に脂質は多くなってしまう傾向にあった」(佐藤氏)。これは、総菜の素があくまで“もう一品”の位置づけにあるからだ。総菜の素を使ったおかずをメインにしても、栄養バランスを考えるなら副菜を追加する必要があった。

 ところが、年齢が若いほどおかずの数は減る傾向にある。「若い共働き家庭では、総菜の素のおかずとごはんだけで済ましている人が多いことが分かった」と佐藤氏。そんな状況にあるからか、江崎グリコの調査によると、献立の栄養バランスを考えることは「ぜひやりたいが、実際にはやっていないこと」の筆頭だ。

江崎グリコの調査によると、総菜の栄養バランスは「ぜひやりたいが、やっていないこと」の筆頭という
江崎グリコの調査によると、総菜の栄養バランスは「ぜひやりたいが、やっていないこと」の筆頭という

 そこで、江崎グリコは「一皿プラスごはん」だけでも栄養バランスが整う総菜の素の開発に至った。タンパク質が豊富な材料で不足しがちなタンパク質を補い、調味油の量を減らして多くなりがちな脂質を調整した。栄養バランスの定義として「タンパク質・脂質・炭水化物」の3大栄養素のバランスを採用した理由は、この3つが整えば他の栄養素も効率よく摂取できるからだという。

 また、他メーカーの総菜の素は、「ひと手間が初心者にはハードルが高かったり、中学生以上を想定しているかのような濃いめの味が多かったりする」(佐藤氏)ことから、調理方法は、切って混ぜていためるだけのシンプルなものにした。

 「総菜の素を使っても実際に調理した立派な料理。ちゃんと栄養バランスを考えて選んでいる、とポジティブな面をアピールして(総菜の素への)ネガティブな気持ちを取り払いたい」(佐藤氏)。

“丼”にできるメニューで子供も食べやすく

 「バランス食堂」のメニューは全部で8種類。すべて子供が食べやすいように丼にできるメニューを選んだ。「麻婆玉子」「なすの肉味噌炒め」「肉豆腐」など既存の商品で人気の7種に「八宝菜」を加えた。具材が多い八宝菜は総菜の素に不向きだが、「6種の具材をあらかじめ素に入れておくことで、手間のかかる料理も簡単においしく作れるようになった」(佐藤氏)。「なすの肉味噌炒め」「コチュジャン炒め」「肉豆腐」には大豆を肉に似せて作った「大豆のお肉」を使っている。

「八宝菜」の調理例
「八宝菜」の調理例

 子育て中の忙しい共働き家庭への訴求として、子供の習いごとの筆頭であるスポーツクラブなどでの待ち時間を使ったアピールを行う。また、関西限定でCMを放送して反応を検証する予定だ。現状はスーパーやアマゾン、ロハコのECサイトでの販売のみでコンビニは想定していないという。

 秋には秋に旬を迎える野菜を使う新メニューが加わる。佐藤氏は、「今後も旬の食材を使ったメニュー展開をしていきたい。体質や体形によって3大栄養素のとり方に工夫が必要なお子さんのために、具体的なレシピの提案をするなど、個別の提唱もしていきたい」と展望を話す。

 「おいしさと健康」がスローガンの江崎グリコ。「バランス食堂」は、忙しい家庭の食卓の「笑顔の素」になるか。