コーヒーを飲む機会はどうしたら増えるのか。ネスレ日本が着目したのは睡眠。同社が東京・大井町にオープンした「ネスカフェ 睡眠カフェ」では、周辺のビジネスパーソンに快適な眠りとコーヒーを提供する。睡眠どころか目がさえそうな組み合わせだが、市場創出や需要拡大にどのようにつながるのか。

東京・大井町にオープンした「ネスカフェ 睡眠カフェ」の店内。布製のパーティションで仕切られた空間で、高級ベッドや最高級のリクライニングレザーチェアでくつろぎ、カフェイン入りとカフェインレスのコーヒーを飲み分けることで、良質な仮眠・睡眠が体験できるという
東京・大井町にオープンした「ネスカフェ 睡眠カフェ」の店内。布製のパーティションで仕切られた空間で、高級ベッドや最高級のリクライニングレザーチェアでくつろぎ、カフェイン入りとカフェインレスのコーヒーを飲み分けることで、良質な仮眠・睡眠が体験できるという

「睡眠×コーヒー」で新しい飲み方を提案

 近年、ベッドや枕はもちろん、睡眠の質が計測できるアイマスクやリラックス効果を狙う照明器具や音響設備など、“睡眠ビジネス”が活発化している。この市場に、ネスレ日本が睡眠とは正反対のイメージのコーヒーを組み合わせたサービスで参入した。2019年3月6日、東京・大井町に新しい睡眠スタイルを提案する体験型カフェの旗艦店「ネスカフェ 睡眠カフェ」をオープンしたのだ。

記者発表の登壇者。右からネスレ日本専務執行役員チーフ・マーケティング・オフィサーの石橋昌文氏、NPOまちづくり大井理事長の神戸三元氏、同・事務局長の加藤雅之氏
記者発表の登壇者。右からネスレ日本専務執行役員チーフ・マーケティング・オフィサーの石橋昌文氏、NPOまちづくり大井理事長の神戸三元氏、同・事務局長の加藤雅之氏

 睡眠とコーヒーを組み合わせたサービスで、同社はいったいどんな客層を狙っているのか。ネスレ日本専務執行役員チーフ・マーケティング・オフィサー マーケティング&コミュニケーションズ本部長の石橋昌文氏は、「日本人全体が睡眠不足や睡眠負債を抱えている。基本的にはそういった問題を抱えている方々を(ターゲットとして)想定している」と話す。

 石橋氏が指摘するように、同社が注目したのは「日本人の睡眠不足」という問題だった。厚生労働省の調査によると、日本人はヨーロッパ諸国に比べて平均睡眠時間が短く、約5人に1人が満足に睡眠を取れていない。このような寝不足の人に対して、睡眠カフェでは「睡眠コース」と「ナップコース」の2タイプのサービスを提供する。

厚生労働省の調査による平均睡眠時間の国際比較のグラフと、睡眠の満足度に関するグラフ
厚生労働省の調査による平均睡眠時間の国際比較のグラフと、睡眠の満足度に関するグラフ

 睡眠コースでは4種類の睡眠時間(60、90、120、180分)を用意しており、どれもまずカフェインレスのコーヒーを飲んでくつろいでもらう。カフェインレスだから、コーヒー自体が眠りを妨げることはないだろう。ぐっすり眠り、目覚めたときに通常のカフェイン入りコーヒーを飲んでもらうという流れだ。

 一方、ナップコースは眠る前に通常のカフェイン入りのコーヒーを飲む。その後、「眠気を飛ばすのに有効」と考えられている30分程度の仮眠を取る。眠る前にあえてカフェイン入りのコーヒーを飲むのは、ちょうど目覚める頃に体内に吸収されたカフェインか効いてきて“シャキッ”とするからだという。

 昨今、目覚めた後に仕事のパフォーマンスを高める効果があるとして、「昼寝」が脚光を浴びている。日本でも“昼寝部屋”を導入する企業が登場するほどだ。既に海外では「パワーナップ」と呼ばれ、米グーグルや米ナイキが取り入れていることは広く知られている。そうしたビジネスパーソンに刺さる“睡眠スタイル”に、コーヒーがうまく当てはまるのだ。「コーヒーナップという形であれば、起きてからシャキッとして、仕事の生産性向上につながる」と、石橋氏も“寝る前の1杯”に自信を見せる。

ネスレ日本は「睡眠」を1つの突破口として、カフェインレスとカフェイン入りのコーヒーの飲み分けを提案することで、コーヒーを飲む機会を拡大しようと考えている
ネスレ日本は「睡眠」を1つの突破口として、カフェインレスとカフェイン入りのコーヒーの飲み分けを提案することで、コーヒーを飲む機会を拡大しようと考えている

 意外な組み合わせを睡眠カフェで狙う目的は、通常のカフェイン入りコーヒーの飲用シーンの拡大だけではない。ナップコースと睡眠コースの2種類を用意して、カフェイン入りとカフェインレスというコーヒーの“飲み分け体験”の場を創出しているのもポイントだ。コーヒーとの接触機会を増やしつつ、多くの日本人が抱える睡眠不足の問題にも取り組もうというのが、このサービスの大きな狙いだ。

 「『こういう飲み方ができます』とPRしていくことで、オフィスやご家庭でも一休みして、シャキッとしていただく。そういうコーヒーの飲まれ方が広まればいい」(石橋氏)

旗艦店を中心にサテライトも展開予定

 実はネスレ日本は、17年から銀座や原宿で合計3回、それぞれ期間限定で「睡眠カフェ」を試験展開してきた。これまでの来店客数は非公開だが、同社コーポレートアフェアーズ統括部メディアリレーションズ室の村田敦アシスタントマネジャーによると「毎回予約の枠がほぼ埋まる状態だった」とのこと。利用客からは「コーヒーと睡眠の組み合わせは意外性がある」「睡眠前にコーヒーを飲むライフスタイルを取り入れてみたい」「自分の睡眠を見直す機会となった」など、ポジティブな声が多かったという。

 試験展開から踏み出した今回の睡眠カフェの常時営業は、「NPOまちづくり大井」からの働き掛けを受けて実現した。きっかけは、同団体の神戸三元理事長が、銀座で実施された睡眠カフェを体験したことだった。

 大井町のある品川区は、「都市型観光プラン」の中で「水辺の観光資源」を強みの1つとして挙げているが、大井町自体に水辺はなく、魅力的な観光資源に乏しい。そこで品川区が掲げる「しながわ健康プラン21」の基本理念の中にある、「地域での健康づくりの推進」に着目した。

 大井町はこの睡眠カフェを“健康になれるスポット”の1つと捉え、そこを目指して近隣や区外からも人々が訪れるような、都市型観光の目玉にしようと考えている。その名も「コーヒーウエルネスプロジェクト」。つまり寝不足なビジネスパーソンだけでなく、観光客も睡眠カフェのターゲットに含まれているわけだ。NPOまちづくり大井の加藤雅之事務局長も、「大井町に来ればあなたは健康になる、ということをテーマに盛り上げていきたい」と意気込む。

 まちづくり大井は睡眠カフェに加え、食育をテーマにした取り組みでもネスレ日本と連携し、大井町での健康推進に力を入れていく。また、今回オープンした常時営業の“旗艦店”を皮切りに、大井町の飲食店や企業、施設にサテライト店の展開を計画。現在、近隣のスポーツ施設や貸し会議室への出店を予定している。