九州を地盤にディスカウントストアなどを展開するトライアルホールディングスは、AI(人工知能)活用を業界横断で推進している。そこにあるのは日本に対する強烈な危機感だ。マスコミの前に出ることはほとんどない同社の永田久男会長が、米シリコンバレーでインタビューに応じた。

永田 久男氏(ながた・ひさお)氏
トライアルホールディングス代表取締役会長
パソコンのソフトウエア開発を手掛ける会社を立ち上げ、1984年にトライアルカンパニーを創業した。ITを駆使して流通業界のトップを走り続ける米ウォルマートをお手本に、成長を続けている。2015年に持ち株会社のトライアルホールディングスを設立。小売業がサプライチェーン全体でAIを活用する「リテールAI」を提唱しており、業界団体のリテールAI研究会を中心となって立ち上げた。メディアの取材をほとんど受けないことで知られる。2018年に『リテールAI最強マネタイズ(日経BP社)』を出版した。

リテールAIを掲げて、実際に福岡市に700台ものAIカメラを導入した新店舗を2018年2月にオープンさせた。なぜAI活用を進めるのか。

トライアルが2018年2月にオープンした、福岡市の新店。700台のAIカメラを導入している
トライアルが2018年2月にオープンした、福岡市の新店。700台のAIカメラを導入している

なぜとか言っている段階ではない。リテールでAIをやらないという選択肢はない。福岡の新店には取引先も来ているし、競合と思われるスーツ姿の視察グループも多いね。

 今、日本はリテールAIという分野に注力しないと本当に沈没してしまうと思うよ。日本に独自の技術はなくなった。失われた20年、30年でなく、50年、100年となり、もはや先進国でなくなっていくだろう。

 そうした危機感からリテール業界でAIを推進しようと考えて、一般社団法人のリテールAI研究会も立ち上げた。

 具体的にはリテールAIを活用するためのITやデータのプラットフォームを構築して、そのコンセプトを世界に広げていきたい。リテールAIについての理解度を測る検定も導入したいと考えている。リテールAIの商標権も出願中だ。リテールAIを日本に普及させて、競争力を取り戻したい。そうした思いから2018年の夏、『リテールAI最強マネタイズ』という本も執筆して、出版した。

今回、自社や取引先のメンバー約100人をシリコンバレーに連れてきて研修をしている。目的は何か。

もちろんリテールAIの推進だ。お分かりの通り、日本でAIの最先端を追うというのは無理。だからこそ今回シリコンバレーに来て、AIについて本場の最新のものを当社と取引先の若手たちに見てもらおうと思ったんだ。米国には優秀なエンジニアがたくさんいて、最先端のアルゴリズムを開発する土壌がある。

シリコンバレーにおける研修風景
シリコンバレーにおける研修風景

 中国もやばいよ。中国の深圳に行ってごらん。日本円で年収1000万円を超えるようなエンジニアがごろごろいる。そうした賢い中国人はシリコンバレーで学んでビジネスを興して、そして中国に戻ってくるんだよ。

 こうした動きを踏まえて、世界と同時に進行していかないと、かつての携帯電話のiモードのサービスように技術が日本だけのガラパゴスになってしまう。

リテールAIでは日本に勝ち目があると。

トライアルに移籍したカメラ技術者 ソニーでスマートフォンカメラのソフトウエアを担当していた松下伸行氏
トライアルに移籍したカメラ技術者 ソニーでスマートフォンカメラのソフトウエアを担当していた松下伸行氏

AIでは、東京大学の松尾(豊特任准教授)さんが言うように、画像関連技術のカンブリア爆発が起きているね。そこでディープラーニングを活用して、独自のカメラソリューションを作ろうと考えたんだ。

 日本には技術力のある大手のカメラメーカーがいくつもあり、素晴らしいエンジニアがいる。しかしこれが十分に生かされていない。これまで中国、韓国、台湾の企業に引き抜かれていた。そうしたエンジニアに、当社に来てもらっている。

 こうして日本の一線級のカメラ技術者が集まり始めている。これまでは引退していたようなベテランもいる。そうした人材は今は10人弱だが、20人規模まで増やしていくよ。

 リテールAIを実現するために、いよいよ専用のカメラとソフトが必要になってきた。当初はハードはどこのものでもいいかと思っていたけど、実際に運用しているうちに専用でないとできないことが多い。それが分かってきた。

 一方で開発や製造はやはり中国の深圳でやるのがベストだな。ただ、現地で本当に優秀な受託先と組むにはノウハウとコネクションが必要だ。それに関してトライアルには、中国語と日本語ができる現地スタッフがいる。トライアルの企業文化も、ITも熟知している。

トライアルが自社開発し、中国で製造するAIカメラ
トライアルが自社開発し、中国で製造するAIカメラ

 大手メーカーだけでなく銀行をやめて当社に来る人も出てきている。日本のビジネスパーソンもリテールAIの可能性に気付き始めているんだよ。流通は世界で3000兆円の市場があり、おもしろい。日本の140兆円のうち、トライアルで3兆円を取りたいね。

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