※日経エンタテインメント!2019年1月号の記事に大きく加筆、再構成

2018年のテレビCMの話題作、勢いのあるタレント、クリエイター、そして潮流は?前編に続き、シンガタのクリエイティブディレクター・権八成裕氏に“総まくり”してもらった。

大御所から若手まで、注目のクリエイターを“総まくり”

クリエイティブディレクターやプランナーで勢いを感じた、気になる人は?

「ロト6」の多田琢さん(TUGBOAT)や、「スカルプD」の山崎隆明さん(ワトソン・クリック)さんは「新しい地図」の立ち上げに関わった仲間で、大尊敬している先輩。次の一手が常に気になります。住友生命「1UP」の麻生哲朗(TUGBOAT)さんも相変わらず元気で、「Sansan」のクラウドサービスのCMも安定して面白いですよね。

 それと、18年に電通から独立したau三太郎シリーズの篠原誠さん。質、量、共に今一番充実した仕事をしているクリエイターだと思うし、これからもヒットCMを量産するでしょうね。前編でも名前の出た福部明浩くん(CATCH)も、吉岡里穂ちゃんの「どんぎつね」や、YOSHIKIさんの「きよらの卵」など、必ず話題になる仕事をしててさすがです。

 若手で注目なのは、「チキンラーメン」を担当している尾上永晃くん(電通)。どん兵衛を5分ではなく、10分待って食べるとうまかったという「10分どん兵衛」の謝罪広告など、ウェブ上の施策で頭角を現したプランナーですが、メディアを問わず面白いことをやれる人だと思う。ファミマの作業も手伝ってもらってます。

 小田桐昭賞(※1)を受賞した大石雄士くんも注目です。福井の進学塾「今西数英教室」の詩情溢れるCMシリーズで高い評価を受けたのですが、本人はコメディーも得意なオールラウンダーで、大手クライアントの仕事が次々に決まっている。僕は彼が学生のときから知っていて、サントリー「ストロングゼロ」などの作業も手伝ってもらってます。

※1 全日本シーエム放送連盟(ACC)による「ACC TOKYO CREATIVITY AWARDS」において、その年に一番輝いた若手プランナーに贈られる賞

CMディレクター(監督)では?

永井聡さん。僕はもう20年近い付き合いの人気ディレクターですが、最近では『帝一の國』や『恋は雨上がりのように』などの映画監督のイメージが強くなっています。「このまま映画の世界に行ってしまうのかな?」と思っていたら、ファミリーマートの香取くんのCMを快く引き受けてくれて、さすがの演出で仕上げてくれました。auの三太郎シリーズを撮っている浜崎慎治くんも今、電通の澤本嘉光さんと一緒に初の映画を制作中です。広瀬すず主演の『一度死んでみた(仮)』(20年公開予定)。三太郎で見せた軽妙なセリフ芸やビジュアルセンスの集大成になりそうな予感、楽しみです。

若手のCMディレクターでは?

一番の売れっ子は、佐藤渉くん。90年代の「ヤキソバン」にオマージュを捧げた日清焼きそばU.F.O.とか、カップヌードルとか、面白いものをたくさん作っていて、ダイハツの「WAKE」や香取慎吾くんの「BMW」など、いろんなCMでシンパシーを感じます。そして18年は何と言っても、博報堂のプランナー・井村光明さんと組んだUHA味覚糖の「さけるグミ」。ウェブ中心でテレビでは数回流した程度らしいので、見たことがない人も多いと思うんですけど、ACC賞(※2)とTCC賞(※3)の2冠。それぐらい、広告業界では「素晴らしい」と評価されたCMでした。

  • ※2 「ACC TOKYO CREATIVITY AWARDS」で、さけるグミCMはフィルム部門Aカテゴリー(テレビCM)の最高賞「総務大臣賞/ACCグランプリ」を受賞
  • ※3 「東京コピーライターズクラブ(TCC)」が選出。さけるグミCMは、最高賞の「TCCグランプリ」を受賞

海外のカンヌライオンズ(※4)でも受賞していました。

※4 「カンヌ ライオンズ国際クリエイティビティ・フェスティバル」で、さけるグミCMはフィルム部門シルバーを受賞

井村さんは2000年代に「ファンタ先生」をヒットさせて、「10年に一度大ヒットを飛ばす」と言われている天才型のベテラン。「さけるグミ」は小澤征悦さんを起用したメロドラマ風の連続ドラマシリーズとして11話作られてるんですけど、シュールでバカバカしくて、毎回、必ず笑えるんですよ。

ネットでもかなりバズっていました。

そもそもこれはオーダーを受けていないのに、井村さんが「この商品のCMをやりませんか?」と自主プレゼンして始まったものらしいです。しかも井村さんのこだわりがすごくて、社長が「もうこれでOKです」と言っているのに、「いや、どうしても直したいところがある」とこだわり抜いて、社長は「正直、うんざりした」と(笑)。そういう執念というか、「絶対面白くしてやるぞ」という熱量が伝わってきました。

ハズキルーペもさけるグミも、作り手の熱量が共通してますね。

本当にそう。マーケティングでロジカルに組み立てたキャンペーンより、「これがやりたいんだ」っていう個人の熱量が突き抜けたものが強い。それを改めて感じた1年でした。