※日経エンタテインメント! 2019年1月号の記事に大きく加筆、再構成

2018年のテレビCMで印象に残った話題作、人気タレント、勢いのあるプランナーや監督は?「earth music&ecology」などのCMで知られ、18年は香取慎吾出演のファミリーマートCMをヒットさせたシンガタのクリエーティブディレクター・権八成裕氏に“総まくり”してもらった。本記事は前編。

産業別CM好感度
CM総合研究所調べ。集計期間:2017年10月20日~2018年10月19日

広告業界を震撼させた「ハズキルーペ問題」

2018年、最も印象に残ったCMは?

これは広告業界の人はみんな言うと思いますけど、18年は「ハズキルーペ問題」というものがありました(笑)。あのCMを、どう位置付けるかっていう問題です。僕自身はまず、舘ひろしさんと若い女の子がホテルでディナーからの宿泊、そして「パパ、パパ」と言っている“パパ活”風のCMにギョッとして(笑)。

 次に渡辺謙さんと菊川怜さんの『TED』風のプレゼンCMを見て、衝撃を受けました。あれはハズキルーペの会長さんが「プランナーからの提案が気に入らなくて、自分でやりたいようにやった」といろんなインタビューで話してますけど、その怒りにも似た過剰な熱量で、異質で突き抜けた表現になっている。

異質というのは?

「大きく見える」「壊れにくい」「メード・イン・ジャパン」とか、商品のことをきっちり説明しているわけですけど、説明しているだけとも言える(笑)。普通、ああいうプレゼンビデオみたいなことを広告ではやらないですし、菊川さんがお尻で商品を踏むパフォーマンスも、クライアントに「コンプライアンス的にやめてください」と言われるのでしません。そして僕らはよく「ニコパチ」と呼んでいますけど、タレントに商品を持たせて笑ってもらって、「この商品最高!」とか「大好き!」ってことも普通しない。

「ニコパチ」や「プレゼンビデオ」にしないのは、なぜですか。

CMって、基本的には自画自賛の自慢話だと思うんです。クライアントは、手塩にかけて作った商品やサービスの良さを広告したいわけですから。だけど、合コンでもそうですけど、自慢話ばっかりする人って、モテないじゃないですか。自虐や失敗談を話せる人の方が信用できる。人にもよるけれど、僕らは「あまり自慢しすぎると嫌われますよ」というスタンスなんです。そこでクライアントの言う通りに自画自賛万歳!みたいな広告を作っちゃうと、「魂売ったな、おまえ」と同業者にバカにされる(笑)。

 だから自慢するにしても間接的だったり婉曲的だったり、視聴者に向かってというより、登場人物同士の関係性の中での自慢を描いたりするもんなんです。それをあそこまで徹底的に長尺で贅沢にある種のセンスでやりきると、逆に突き抜けて目立つんですよ。だって、渡辺謙さんがカメラに向かって、直接商品のプレゼンをしてきますからね。あんなに声を張り上げて(笑)。菊川怜さんの「だぁいすき」も、普通、あそこまで言わせない。しかもそれを60秒という長尺でたっぷり見せるっていうのがミソ。ぜいたくで、かつてないほど「直接的」なCMでした。

 同じ長尺でも真逆といえるのが、流通・販売部門で好感度1位になっているAmazonプライムです。昔、おばあちゃんがおじいちゃんとツーリングをしていたことを写真で知った孫が、サプライズでヘルメットを買ってあげて、2人乗りでツーリングに出かけるというハートウオーミングなストーリー。それをセリフを一切使わず、長尺で描いている。僕なんかは斜に構えて「雰囲気にだまされないぞ」と思うんですけど(笑)、多くの人が引きつけられて、広告業界でも評価される方向にあります。どこまでこの路線で行くのか、広告業界は固唾をのんでハズキルーペを見守っています。