さまざまな交通手段を統合して新たな移動体験を生み出す「MaaS(モビリティ・アズ・ア・サービス)」。交通ジャンルの変革にとどまらず、他産業に及ぼす影響も大きく、既に欧米ではスマートシティの重要なピースとして語られている。日本におけるMaaSの近未来について、各界の識者が語りつくした。

「トランザム」(日本経済新聞社主催)でのセッションの模様。右からモデレーターでMaaS Tech Japan社長の日高洋祐氏、世界経済フォーラム第四次産業革命日本センター長の須賀千鶴氏、日本政策投資銀行の石村尚也氏、内閣官房IT総合戦略室の信朝裕行氏、グロービス・キャピタル・パートナーズの渡邉佑規氏
「トランザム」(日本経済新聞社主催)でのセッションの模様。右からモデレーターでMaaS Tech Japan社長の日高洋祐氏、世界経済フォーラム第四次産業革命日本センター長の須賀千鶴氏、日本政策投資銀行の石村尚也氏、内閣官房IT総合戦略室の信朝裕行氏、グロービス・キャピタル・パートナーズの渡邉佑規氏

 あらゆる移動手段を統合して、次世代の交通サービスを創り出す「MaaS」。これは、「100年に一度」の変革期にあるモビリティ業界に多大なインパクトをもたらす動きであると共に、人々の移動が自由に活発になり、交通のデジタルプラットフォームが“開放”されることで、不動産やエネルギー、小売りといった他の産業にも大きなビジネスチャンスが生まれると期待されている。日経クロストレンドの人気連載、「Beyond MaaS 移動の未来」の世界だ。MaaSによる変化のポイントをまとめると以下のようになり、ここが他産業との融合を生む重要な接点となり得る。

【MaaSが都市や生活にもたらす変化のポイント】
①移動のパーソナライズ化
→ 個々人のニーズに合わせた移動手段をアレンジ、新たな移動需要の創出が可能に

②交通の最適化・サブスクリプション化
→ モビリティの移動を統合的に制御する仕組みの登場
→ 「乗り放題定額パッケージ」の出現で、交通以外のビジネスとのワンパッケージ化が容易に

③都市空間・立地の再定義
→ カーシェアやライドシェアの普及で駐車場が消滅、空きスペースの有効活用が可能に
→ 交通体系の再構築で、立地によらないビジネスが可能に

 今回、2018年12月6~8日に開催されたイベント「トランザム」(日本経済新聞社主催)のセッションに、MaaS Tech Japan社長の日高洋祐氏がモデレーターとして登壇。世界経済フォーラム第四次産業革命日本センター長の須賀千鶴氏や内閣官房IT総合戦略室の信朝裕行氏といった政策サイド、日本政策投資銀行の石村尚也氏やグロービス・キャピタル・パートナーズの渡邉佑規氏といった金融サイドの識者と共に、MaaSが引き起こす社会・産業インパクトについて語り合った。


MaaS Tech Japan 日高洋祐氏(以下、日高) MaaSはあらゆる移動手段を統合するものであると同時に、それを実現するためには交通分野のデジタルプラットフォームを構築していく必要があります。既存の交通事業者が抱えている移動データを新しい産業に生かす際の課題は何でしょう?

内閣官房IT総合戦略室 信朝裕行氏(以下、信朝) 交通データのオープン化は、まだまだ難しいのが現状です。2016年に官民データ活用推進基本法が公布・即日施行されました。それには3つのポイントがあります。

 1つ目が本人同意に基づく個人情報の有効活用。最近の報道で目にする「情報銀行」は、この分野です。2つ目がデジタルファースト。日本ではこれまで契約などは対面が「正」でオンラインが「副」という関係でした。しかし、この法律がそれをひっくり返し、オンラインが「正」で、対面は「副」となりました。

 そして3つ目がMaaSに関係するオープン・バイ・デフォルト(初めからオープンにすることが決まっている状態)です。行政機関のデータは基本的にはオープンにすることが義務として明記されています。万が一、出さない、あるいは出せない場合は、その理由をはっきり書かなくてはなりません。公共領域に関しては義務ではなく努力目標ですが、公共交通事業者からは運行情報や時刻表などをオープンデータとして提供してもらう。有償無償の議論ではなく、交通以外の事業者が使いやすいように、契約が簡易であったり、窓口が一本化されていたりと。しかし、現状ではまだ、そこに至っていません。一部の企業が特定の理由に独占して使うのではなく、いろいろな業者がAIを活用して新しいビジネスやその先にある新しい生活づくりに参画してほしいということです。

日高 世界ではGAFA(Google、Apple、Facebook、Amazonの頭文字)などの巨大プラットフォーマーも存在していますが、日本ではどのような形がフィットするのでしょうか?

世界経済フォーラム第四次産業革命日本センター長 須賀千鶴氏(以下、須賀) 世界経済フォーラムでは、グローバルでデータガバナンスについて議論しているのですが、日本への期待が非常に高まっています。

 データガバナンスの種類としては、3つの方向性があると思います。①米国のGAFAのようなデジタルプラットフォーマーのモデル、②中国のような政府主導モデル、③欧州のようなデータ発生源である個人の利益に重きを置いたGDPR(EU一般データ保護規則)です。しかし、この3つはどれも最適解ではないと言われています。①と②は、効率的で1つの勝ちパターンですが、一部の人にデータを使い切った後の利益がたまりやすい構造で、再分配するモデルを入れなければ不安定な社会を作ってしまう恐れがあります。③は良い評価もある一方で、企業にとってデータは恐る恐る使うものだという世界観を作ってしまっており、データ活用を主軸とする第四次産業革命と食い合わせが悪い制度という見方もできます。

 データというのは、いくら使い倒してもなくならない極めてまれな経営資源です。これを限られた人のみが使うのは経済的に合理的ではなく、あらゆる人が違う目的で使い倒すからこそ、社会全体でベネフィットが最大化されるのではないか、という議論がされています。そこで求められているのが、4つ目のデータガバナンスの解です。

 これは、オープンAPIエコノミーに極めて近いものです。おのおのの事業者でデータベースを作り、メンテナンスしながらある程度データを集めます。それを無償で提供するという議論ではなく、第3者がしかるべき条件に当てはまれば使える、オープンAPIで接続できる環境を作れないかというものです。

 1事業者で“鎖国”するのではなく、皆が手弁当で集めたものを持ち寄り、半分パブリックデータとして差し出すことによって、全体として何十倍もの効果がデータの利活用によって生み出せるのではないか。このデータガバナンスの第4のモデルを提言できる人口1億人を超える国は、世界でも日本とインドしかないと言われています。世界経済フォーラムでは、日本とインドが組んで社会全体の利益を最大化できるモデルを示すことはできないかと活動しているところです。

信朝 APIエコノミーに関しては、内閣府の戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)で農業分野の取り組みがあります。APIエコノミーが実現できる基盤をつくり、2年間で300社が集まり、API活用の際に課金する契約モデルを作りました。これは今、アジアや欧州から視察が殺到しています。現在は国が作った枠組みですが、この先は公益性を失わない範囲で、複数の事業者が一緒になって運営していく形が1つの解になるのでは。これは、須賀さんがお話された第4のデータガバナンスにも通じる取り組みでしょう。

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