アニメーション映画『君の名は。』を中国全土で配給、国民的アイドルグループ乃木坂46の中国・上海初の単独ライブを実現──。その立役者が、日本のベンチャー企業・アクセスブライト(東京・千代田)だ。ビジネスが最も難しいとされる中国で、なぜ結果を出すことができたのか。その秘訣を具体的にひも解く。 (※前編「『君の名は。』、乃木坂46…中国コンテンツビジネス成功の鍵」とあわせてお読みください)

 ゲーム業界から映画業界へ躍進したアクセスブライト。『君の名は。』を起点に、音楽へとつながっていく。これには、意外な後押しもあった。

 「2017年、韓国にTHAAD(サード)ミサイルが配置され、中国がこれに反発。その影響で、K-POPのアーティストが中国に来られなくなってしまい、韓流を手広く手掛けていたプロモーターの売り上げがゼロになってしまったんです。彼らは韓流コンサートの80%を興行しているといわれており、その空きをどう埋めるかに頭を悩ませていました。
 そこで、『君の名は。』が大ヒットした直後だったこともあり、RADWIMPSさんにアジアツアーを提案、招聘したところ、チケットは即完売に。今年7月にも2年連続でアジアツアーを行ったのですが、中国で最も旬かつオオバコの上海メルセデス・ベンツ・アリーナでの公演が実現となりました。ここで演奏できるのは、一種のブランド力となる。たくさんの中国メディアが入り、話題となりました」(アクセスブライト代表の柏口之宏氏、以下同じ)

RADWIMPSの2018年のツアーポスター。RADWIMPSのアジアツアーは中国以外の国々では500~1500人クラスのキャパシティーのライブハウスだったのが、中国では6500人キャパと大きく動員を伸ばした

カメレオンのように時流に合わせ即変化

 このように、中国とのビジネスには、どうしても政治的事情が絡んでくる。米グーグルをはじめ、米系のIT企業はなかなか進出できないし、対日本も、尖閣諸島など火種が多い。そこは腹をくくっておいたほうがいいと言う。

 「政治もそうですが、マーケットも激変中なのが中国。状況に応じてカメレオンのように素早く変化するのが肝要です。
 実は我々も、ゲームをゼロから開発する事業は昨年で大幅に縮小しました。今、中国ではモバイルゲーム1本に5億円など、世界一の開発費をかけています。マーケティングコストも必要で、下手すると1本作るのに10億円なんてことも。我々はあくまでもベンチャー企業なので、そんなレッドオーシャン(血で血を洗うような激しい価格競争が行われている既存市場)にはいられない。そこで16年秋にゲームの開発部40人をリストラ、労働争議にもなりましたが、そうせざるを得なかったのです」

 一方で、映画事業でタッグを組んだエンライト・メディアとの関係は、演劇にも広がっている。

 「エンライトは、映像関連だけでなく、自社でタレント事務所も持っており、日本のIP(キャラクターなどの知的財産)を使って所属俳優を舞台で育てる、ということに力を入れ始めています。
 10月より中国全土で巡業が始まる舞台『ナミヤ雑貨店の奇蹟』は、フランスに留学、ブロードウェイでも演出経験がある若手カリスマ演出家の劉方祺(リュウ・ファンチー)が手掛けています。
 東野圭吾さんの小説は中国でも大人気ですが、劉監督も東野作品の大ファンで、『ナミヤ雑貨店の奇蹟』の舞台化を熱望。一方我々は、版元のKADOKAWAさんとは9月にサービスインしたモバイルゲーム『デート・ア・ライブ』などで関係があり、許諾を頂くことができました。これも、KADOKAWAさんがアクセスブライトにライセンスをし、アクセスブライトからエンライトにサブライセンスをするという形です」

 日本では舞台というと大作映画に比べ小さなバジェットに思えるが、中国では非常に大がかりなセットを組み全国で展開するなど、例えるなら『シルク・ド・ソレイユ』ばりの興行力を誇る。『ナミヤ雑貨店の奇蹟』も上海を皮切りに北京など主要14都市で150公演。チケット販売も好調で、「上海公演で投資は全部回収できる」のだとか。

 この舞台化を通しても、中国におけるビジネスのヒントが見えてくる。「舞台用の脚本作りで、アクセスブライトが監修に入ったのですが、ゲームなどで培った“対中国”の監修を通すノウハウが生きた」のだ。

 日本の版元が自社IPのブランド堅持に務める一方で、中国では政府の規制が非常に厳しいのは周知の通り。

 「中国では、例えばですが、神秘的なことや宗教はNG。占いもダメなので、“統計学”と言い換えます。また、RADWIMPSのツアーのときは、(『君の名は。』内の楽曲)『前前前世』に(NGワードの)“革命(前夜)”という言葉が出てくるのですが、これも今年行われた2度目のツアーでは“超訳”で通しました」

 『ナミヤ雑貨店の奇蹟』は手紙が過去と未来を行き来するというファンタジー作品で、神秘的な部類に入るが、うまく切り抜けた。こうして作られた脚本は、既に台湾、韓国からもライセンス依頼があるなど、新たな収益を生み出している。

舞台『ナミヤ雑貨店の奇蹟』の上海公演の様子とポスター。演出の劉監督は、中国のベストセラーSF小説『三体』を舞台化したことでも有名。中国14都市、5万人を動員し、今年12月に早速再演が決まった

日本の最旬コンテンツをタイムラグなく届ける

 GDP(国内総生産)で見ると、11年に日本を抜き、今や3倍にもなった中国。ゲーム市場は2036.1億元(約3兆3700億円)超とダントツの世界一。映画も急成長を続け、17年度には559.11億元(約9250億円)にまで急成長を遂げ(以上、JETRO調べ)、世界最大の北米市場を抜くのも時間の問題にまでなっている中国のエンターテインメント産業。音楽では中国は10位と、米国、日本、ドイツの後じんを拝しているが、その急成長ぶりから見ると、日本を超える日もそう遠くはなさそうだ。

 そんな中国市場への進出に、これ以上遅れを取らないようにするためには、「旬のものを旬のうちに持ってくることを徹底させるべき」、と柏口氏は断言する。

 「中国の人たちは、今、日本で何がはやっていて人気か、我々の想像以上に詳しいです。例えばアーティストが人気絶調か少し下り坂か、とても敏感に反応します。また、日本でのリリースから近くないことにも不満を持ちます。“遅れ”が違法動画につながってしまうんです。そういう意味で、『君の名は。』はタイムラグなく持っていけたのも、成功の1つの要因になったと思います」

 ゲームに始まり、各ジャンルが連動して事業を拡大してきたアクセスブライト。今後、どのような展開を図るのか。

「3年前から映画産業へ、去年は音楽産業に参入を果たし、年内は12月1日に乃木坂46の海外初単独ライブが上海で決定しました。映画、音楽は、さらに拡大していければと思っています」