最近、女性を性的対象としたエロ・セクシュアルな表現や女性だけが家事・育児をするのが当然であるといったステレオタイプ的な表現など、ジェンダー(性差)表現に関する広告がいくつか問題視されている。フランテック法律事務所代表の金井高志弁護士に、多様な受け手から共感が得られないような宣伝広告の問題について聞いた。

 宣伝広告においては、女性や高齢者、年少者、外国人など多様な受け手がいることから、こうした受け手を意識し、それらの者からの共感を得られるような表現を心掛けることが求められている。ところが最近、多様な受け手からの共感が得られないような宣伝広告、特にジェンダー表現に関する広告がときどき制作され、世間を騒がせている。

Q1 どのようなジェンダー表現に関する広告が問題視され、炎上しているのか?

A1 最近になって初めて、ジェンダー表現に関する広告が問題視され、炎上するようになったわけではない。日本において、最初に問題となった事例としては、1975年に公開されたハウス食品工業(現:ハウス食品)のインスタントラーメンのテレビCM「私作る人、僕食べる人」が挙げられる。

 このテレビCMの内容は、インスタントラーメンが置いてあるテーブルの前に男女が並んで椅子に座り、女性が「私作る人」と言うと、男性が「僕食べる人」と言うもので、食事は女性が作るという性役割を前提とするものである。

 このハウス食品のテレビCM以降も、ジェンダー表現に関する広告について問題視され、炎上する事例が繰り返されている。とりわけ、SNSが普及した最近では、ジェンダー表現に関する「広告の炎上」(以下「ジェンダー炎上」という)がしばしば発生している。

 例として、17年に公開されたサントリーの新製品ビール「頂<いただき>」のインターネット動画が挙げられる。この動画の内容は、女性が「コックゥ~ん! しちゃった」と言いながらビールを飲むといった、女性との性行為を連想させるものであった。19年になってからも、トヨタ自動車が自社の公式Twitterアカウントにおいて、「女性ドライバーの皆様へ質問です。やっぱり、クルマの運転って苦手ですか?」とツイートし、女性は車の運転が苦手というイメージを押しつけるものとして、炎上した事例がある。

Q2 なぜジェンダー炎上するようになってきたのか?

A2 既に紹介した通り、ジェンダー表現の問題視・炎上は、新しい問題ではない。ただ、最近は、以前はあまり問題とされなかったような表現についても炎上するようになり、さらには、女性を応援する目的の広告であっても、潜在的に女性の性役割やイメージを固定する表現がなされているものについては、問題視され、炎上するようになってきている。

 これにはさまざまな要因が考えられる。法制度的な背景としては、85年に、男女の完全な平等の達成に貢献することを目的として、女子に対するあらゆる差別を撤廃することを基本理念とする女子差別撤廃条約が締結されたことがある。そして学校教育においても、男子は電気・機械などの技術科、女子は被服・食物などの家庭科を学ぶという男女別の教科だったものが、90年代以降、家庭科の男女共修が実施されるなど、教育課程に変化があったことなどがある。これらの事情が一因となり、表現の受け手のジェンダーに関する感覚が鋭くなってきたことが考えられる。