「日経クロストレンドEXPO 2018」にSHOWROOM社長・前田裕二氏の登壇が決定。またエステー執行役・鹿毛康司氏にもEXPOの別セミナーで登壇いただくため、イベントの情報を追加しました。

新たなスターを生み出す動画配信プラットフォームとして注目の集まる「SHOWROOM」。同サービスの視聴者が配信者を応援する気持ちを消費に変える「応援消費」は、共感型マーケティングの新潮流として注目が高い。SHOWROOMの前田裕二社長は「共感」はデータから見えると断言する。その心にエステー執行役エグゼクティブ・クリエイティブディレクターの鹿毛康司氏が迫る。

SHOWROOMの前田裕二社長(左)とエステー執行役エグゼクティブ・クリエイティブディレクターの鹿毛康司氏(右)
SHOWROOMの前田裕二社長(左)とエステー執行役エグゼクティブ・クリエイティブディレクターの鹿毛康司氏(右)

鹿毛康司(以下、鹿毛) エステーでは2018年に元モーニング娘。の高橋愛さんと、田中れいなさんを起用した「脱臭炭」のテレビCMを制作しました。2人が共演するのは久しぶりということもあり、Twitter上には「エステーさんありがとう、脱臭炭を買います」という声が多数流れました。

前田裕二氏(以下、前田) モノやパッケージ自体に備わる価値、例えば機能や安さなどを伝えても、それだけでは大きな消費行動が起こしにくい時代に入ってきています。商品そのものではなくて、その商品の裏側にある物語にシンパシーを感じたり、共感を持ったりすることが消費につながる。共感とは、対象に向けて、人の心がぐっと近寄っていくことです。人の無意識だけではなく、心をしっかり引き寄せる商品が勝っていくと思っています。

鹿毛 テレビCMを作る時には「距離感を作りましょう」といったことを考えます。同じような商品があったとして、友人が働いている会社の商品ならそちらを買う人が多いのではないでしょうか。企業は人ではないので友人ではありませんが、そういう(近い)距離感を作ることを意識してテレビCMを企画しています。

前田 エステーのテレビCMを見て、まさにその発想で作られていると感じました。当社がなぜ心を引き寄せることを重視したサービス開発を心掛けているかというと、サービスや製品が奪い合うものが変化していると感じるからです。

 自動車や家電、さまざまな企業がこれまで奪い合ってきたのは可処分所得です。ところがこの20年で大きな変化が起きました。その変化とは、所得ではなく、人が長く時間を費やしているサービスに価値が生まれていることです。例えば、米グーグル。消費者はグーグルにお金は支払っていませんが、利用者は多くの時間を費やしています。そこにスポンサーが付いてくる。この可処分時間の奪い合いに勝つ企業の時価総額が高まっています。

 それはなぜか。当たり前ですが、お金は工夫次第で増やせますが、時間は増やせない。また、社会全体の成熟によって、個人にお金がもたらす効用も下がってきている。よって、相対的に時間の希少価値が高まってきている、と考えています。

「可処分精神」の奪い合いが始まる

 さらには、これから、可処分時間の奪い合いから、可処分精神の奪い合い、すなわち「心」の奪い合いへの緩やかなシフトが起きるという仮説があります。単に時間のみを奪うサービスよりも、精神を奪えるサービスのほうが、より深く長い顧客ロイヤルティーを持ち続け得る、という考え方です。ファンビジネスや恋愛、宗教がこれに近いかもしれません。

前田裕二氏 SHOWROOM社長。1987年東京都生まれ。2010年に早稲田大学政治経済学部を卒業後、UBS証券に入社。11年、UBS Securities LLCに移りニューヨーク勤務を経た後、13年にディー・エヌ・エー(DeNA)入社。同社でライブ配信プラットフォーム「SHOWROOM(ショールーム)」を立ち上げる。15年に当該事業をスピンオフ、SHOWROOMを設立し、現職。ソニー・ミュージックエンタテインメントからの出資を受け、合弁会社化。17年6月に初の著書『人生の勝算』を出版
前田裕二氏 SHOWROOM社長。1987年東京都生まれ。2010年に早稲田大学政治経済学部を卒業後、UBS証券に入社。11年、UBS Securities LLCに移りニューヨーク勤務を経た後、13年にディー・エヌ・エー(DeNA)入社。同社でライブ配信プラットフォーム「SHOWROOM(ショールーム)」を立ち上げる。15年に当該事業をスピンオフ、SHOWROOMを設立し、現職。ソニー・ミュージックエンタテインメントからの出資を受け、合弁会社化。17年6月に初の著書『人生の勝算』を出版

 シンプルなことですが、可処分時間のレースで勝とうと思ったら、可処分精神のレースで勝つのが早い。その前提に立って、我々事業者側は、一体、共感とは何なのか、何が利用者のシンパシーを引き起こすのかを科学して、丁寧に商品を世に問うていく必要があると感じています。

鹿毛 共感はデータで見えるものですか?

前田 見えます。それには深さを分析することが重要です。これまで、動画であれば、再生数やページビュー(PV)が評価指標でしたが、それはすべて幅を測っているにすぎません。ですが食事をしながら見ている人と、集中して見ている人では同じ視聴態度でも深さが違うはずです。SHOWROOMではこの深さをビジネスにしようとしています。

 従来の1PVはすべて等価値ですので、原則として、幅をとらなければもうからないモデルでした。ですが、これから深さが可視化され、その分しっかり収益に変換する世の中になれば、ビジネスモデルが大きく動く可能性があります。極端な話ですが、例えば、仮に視聴者がたった1人だったとしても、1人が1億円分の共感をしてくれれば、それは、そのコンテンツやサービスの強さとしてカウントされるべきです。

 この考えに至る自らの原体験として、ギターの弾き語りがあります。弾き語りでは、お金を払う人がとにかく幸せそうにお金を置いていってくださるんです。中には「そこまで頂くわけにはいきません」とこちらが困惑してしまうような金額を支払ってくれる人もいました。例えば、松田聖子さんが好きな人のために、何曲も松田聖子さんの曲を歌ったところ、1度に3万円置いていってくれたこともありました。

鹿毛康司 エステー 執行役エグゼクティブ・クリエイティブディレクター。早稲田大学商学部卒、ドレクセル大学MBA。食品会社を経て、03年にエステーへ。15年間にわたりコミュニケーション領域の責任者として活動。04年から動画コンテンツを活用、07年には「ツイッターの中の人」になるなど、ネットコミュニケーションをいち早く取り入れてきた。現在も独自サイト「エステーQ」の編集長を兼ねる
鹿毛康司 エステー 執行役エグゼクティブ・クリエイティブディレクター。早稲田大学商学部卒、ドレクセル大学MBA。食品会社を経て、03年にエステーへ。15年間にわたりコミュニケーション領域の責任者として活動。04年から動画コンテンツを活用、07年には「ツイッターの中の人」になるなど、ネットコミュニケーションをいち早く取り入れてきた。現在も独自サイト「エステーQ」の編集長を兼ねる

鹿毛 これまで多くの広告主はマス広告を中心に展開してきました。例えば、月9のドラマに出稿したとする。ですが、ただ放送するだけでは浅い。たった15秒ですから。では何をすべきかというと、世論作りです。ここで使えるのがTwitterです。1万人、2万人がツイートしているというと、リーチ数は少なく見える。ですが、1万人の“署名”と捉えればとても大きい。

 私も、ソーシャルメディアをリーチと捉えるのではなく、そこに深さがあると考えると面白いと思っていました。しかも、その“署名”がたくさん集まれば時にニュースにもなります。11年の震災が起こった後、エステーは他社に先駆けて「消臭力」のテレビCMを放送しました。かつて大地震による津波で1万人が亡くなったリスボンで撮影をして放送しました。バッシングを浴びるのではないかと危惧もしましたが、ふたを開ければものすごい数でツイートがされて、結果的に消臭力はシェアで2位から1位に上がりました。これはまさしく共感が生んだ“投げ銭”だったと考えられます。

伝えたくなるストーリーが成功の鍵

前田 すごい。視聴者の皆さんがきっと、純粋にエステーを応援したいと思ったのですね。共感を呼ぶコンテンツにはいくつか共通点があるのですが、最も重要なのはストーリーです。そのことを聞いたら思わず、他の人に伝えたくなる、そんなストーリー。消臭力のテレビCMはその点秀逸ですね。実はポルトガルで撮影されていて、かつ、その背景には、ポルトガルが日本と同じ悲しみを過去に背負っているというストーリーがある。これは十分、人に伝えたくなる条件を満たしていると考えられます。これによって、拡散性を持つわけですね。

 SHOWROOMで1人、ストーリーが元になって有名になった女の子がいます。それはAKB48の大西桃香さんというメンバーです。彼女は必ず午前5時半から動画を配信していました。多くのメンバーが夜帯に配信していたため、差異化を図るのも狙いの1つだったのでしょう。しかも、その5時半からの配信を、約2年間も毎日連続でやりました。これは、ものすごい気迫です。いつしか彼女はファンから「朝5時半の女」と呼ばれ、注目を集めていきました。

 なぜ彼女はそこまで頑張れるのか。その理由を語るのは他でもない、彼女のファンです。大西さんは2年前に父親を病気で亡くしています。父親はアイドルという仕事に対して、ちょっと冷たい態度を取っていて、あまり良い関係にあったとは言えなかったそうです。なぜ、こんなに頑張っているのに応援してくれないのか。そう悩んだこともあったそうです。ところが、病気でなくなった後に父親の携帯電話を見ると、アイドルとして活躍している彼女の写真や動画がたくさん綺麗に整理、保存されていたそうです。

 お父さん、本当は、誰よりも娘のことを応援していたんですね。そういった背景を知ったファンは、彼女の仕事に対する真摯さの理由を、つい他のファンに伝えたくなる。共感を呼ぶにはファンが世論を形成してくれるエピソードが非常に大切です。

鹿毛の視点
 人間の心の「共感」を科学してサービスと事業を創り上げる前田社長。今までのマーケティングの指標やKPI(重要業績評価指標)では片付けられない本質のマーケティングがそこにあることだけは確かです。全マーケターが研究すべき人物でありサービスという印象を受けました。

(写真/山田愼二)

「スマホファースト時代のコンテンツ&ファンマーケ論」
SHOWROOMの前田裕二社長がxTREND EXPOに登壇
SHOWROOM代表取締役社長の前田裕二氏
SHOWROOM代表取締役社長の前田裕二氏
「スマホファースト世代」が消費の中心になりつつある。そんななか、テクノロジーの進化により、コンテンツの表現力は劇的に高まっている。スマホがどのようにエンタメやコンテンツを変えたのか、誰もが生配信できるアプリ「SHOWROOM」で演者とファンの新たなコミュニケーションの場を生み出した前田裕二氏に聞く。加えて、濃いファンである「アンバサダー」によるマーケティングを提唱する徳力基彦氏と共に、SHOWROOMなどの人気サービスや企業になぜ多くの若者が熱狂するのか、その秘密を解き明かす。

日時 11月28日(水) 12:30~13:20
会場 東京国際フォーラム(東京・有楽町)
入場無料。申し込みはこちら
「マーケティングの鉄人」
エステー執行役エグゼクティブ・クリエイティブディレクターの鹿毛康司氏が日経クロストレンド EXPO 2018に登壇
エステー執行役エグゼクティブ・クリエイティブディレクターの鹿毛康司氏
エステー執行役エグゼクティブ・クリエイティブディレクターの鹿毛康司氏
トップマーケターは課題をどれだけ深く考察し、どのような思考プロセスで解決策を見い出しているのか――。数々のプロジェクトを成功させてきたスゴ腕マーケターがマーケティングの課題を目の前で料理。トップマーケターの思考プロセスをバッチリ“見える化”する。

日時 11月28日(水)  16:10~17:30
会場 東京国際フォーラム(東京・有楽町)
入場無料。申し込みはこちら