2019年初夏、台湾の台中郊外にある温泉地グーグァン(谷關)に「星のやグーグァン」が開業予定。バリ島に続き海外2拠点目となる星のやは、どのような魅力を備えるか。星野リゾートの星野佳路代表に新市場開拓について聞いた。

星野佳路(ほしの・よしはる)氏
星野リゾート代表
1960年長野県軽井沢町生まれ。慶應義塾大学経済学部を卒業後、米国のコーネル大学ホテル経営大学院修士課程へ。1991年に先代の後を継いで星野リゾート代表に就任。以後、経営破綻したリゾートホテルや温泉旅館の再生に取り組みつつ、「星のや」「界」「リゾナーレ」「OMO」などの施設を運営する“リゾートの革命児”。2003年には国土交通省の観光カリスマ百選に選出された

──「星のや」の海外2拠点目に台湾を選んだ理由は?

星野佳路氏(以下、星野) 場所は私たちが選ぶのではなく、オーナーや投資家の方々から「この場所にホテルをつくろうと思っていますが」と運営の相談が寄せられて決まるものです。相談を受けるとまず、その土地の魅力を把握するために現地に赴きます。私は、台中もグーグァンも初めてでしたが、ここの魅力はなんと言っても豊富な源泉。日本の温泉地ではなかなか得られない湯量を堪能できるのが特徴です。そこから、星のやグーグァンのコンセプトは「温泉渓谷の楼閣」と決定しました。現在、他の諸外国でもさまざまなお話を頂いています。

──視察に行って、その土地の魅力がなかったという場所もありますか?

星野 現地の魅力を把握し、この場所に何部屋つくって、これだけの稼働を見込めるというシミュレーション結果を提示できるかどうかが重要です。魅力を感じられない場所では、いくら計算しても、「ホテルをつくった場合の利益はこの程度です」となってしまい、結果として良い契約には至りません。

 魅力があっても、まだ高級ホテルというマーケットが確立していない場所では、こうした計算を立てるのが難しいことがあります。反対に、東京や京都のように既に高級ホテルマーケットがある場所は試算しやすいです。マーケットがない場所を一般の会社に調査していただいても「ここに市場はありません」という答えが返ってくるはずなので、そこが私たちの目利き力が問われるところでもあります。

 台北に住む方々が年に5回旅行しているとして、そのうちの何回、グーグァンに足を運んでもらえるかと考えます。台湾の方々は日本の温泉地にも多く訪れる「温泉好き」。台湾の他の温泉地も視察しましたが、台湾には本格的な温泉旅館はあまりなく、温泉という資源を生かしきれていないという印象です。その分、台湾における高級温泉旅館のポテンシャルは高いと思っています。

──ターゲットはどうですか?

星野 今回は、台湾に住む方々に、台湾のポテンシャルを再発見していただくのが最大のミッションです。台湾から日本に来て富士山を訪れる旅行客はとても多いですが、台湾の最高峰、玉山(ぎょくさん)は高さ3952m。富士山よりも高いのに、登ったことがあるという台湾の方はあまりいないそうです。航空網が行き渡っており、中国大陸や日本に近いというのもありますが、台湾の人々はあまり台湾観光をしない傾向にあります。グーグァンを含め、台湾にも面白い場所がある、と知っていただきたいですね。

 同じようなことが、日本や中国大陸、世界の人にも言えます。台湾旅行というと、台北で小籠包を食べてくるイメージが強く、台北のみを訪れるという人は多いのではないでしょうか。しかし、魅力的な場所は他にもたくさんあって、例えば、台中のナイトマーケットは世界最大。グーグァン以外の場所の魅力も伝えて、台湾内を巡ってもらえるようにしたいと考えています。

 星のやグーグァンについて、個人的な目標としては、5年後には台湾の旅行客が半分、それ以外の地域からの旅行客が半分という比率にしたいと考えています。将来的には、この温泉旅館をきっかけに宿泊施設が増えたと言われたり、そのうち玉山への登山がポピュラーになっていたりするとうれしく感じます。

 グーグァンは、台北からも台中からもかなり離れていて、東京から軽井沢に行くよりも遠い感覚。来ていただくためには工夫が必要ですが、何よりも大切なのは、グーグァンという場所にしっかりとしたサービスを伴った温泉旅館をつくること。そうすれば、台湾から飛行機で日本に来なくても、質の高い宿泊滞在を体験できるようになります。世界的に見ても、飛行場もたくさんあってこれほど大きなポテンシャルが眠っている場所はあまりないと思います。