今のルミネの立ち位置に危機感を持ってほしい

川島 私も先日、シンガポールとジャカルタのルミネに行ってきたのですが、現地のルミネ社員の方々は「ものすごく勉強になっているし、自分の自信にもつながった」と語っていました。

新井 それも大きな目的の一つでした。「ルミネ」も「ニュウマン」も今のところは順調に行っているのですが、中長期的な視点から見れば現在のビジネスモデルはいずれ行き詰まっていくのは目に見えています。国外に出て仕事をすることで、何ができてどれだけ人の役に立てるのか、自分たちの実力が明快に分かります。若手の社員が今のルミネの立ち位置を当たり前のことと捉えるのではなく、危機感や緊張感を持って仕事に臨んでほしいという思いもあったのです。

川島 自社や自分を客観的に見つめ直す機会になりそうです。

新井 新しい仕事を作っていくことは、そう生易しいことではありません。でも苦労してそこを乗り越えることで、本当の成長ができるのだと思います。そういった経験を経て日本に戻ったら、ルミネが挑戦していくべきことも見えてくるのではないでしょうか。若いうちに身をもって経験する、つまりDNAとして記憶に残すことで、新しいものを生み出す力になっていくと思うのです。

若手には実際のビジネスで練習の機会を与えるべきだ

川島 なぜ、シンガポールとジャカルタだったのでしょうか。

新井 アジアに出るに当たって、まずはリサーチから始めました。4人1 組のチームを4つ作り、ベトナム、マレーシア、タイ、シンガポール、インドネシアなど、12カ所を選んで現地調査を行ったのです。その後、チームのメンバーをシャッフルし、もう1回リサーチを行いつつ議論を重ね、最終的にシンガポールとジャカルタという結論に至ったのです。その理由の一つは、市場としての潜在的な可能性を持っていることでした。

川島 シンガポールはアジアの中でも先進都市の一つで、多くの小売業があり、豪華なショッピングモールもたくさんあります。かつては日本の百貨店もたくさん出ていましたが、今は髙島屋と伊勢丹だけで、あとは撤退してしまっている。競合がひしめき合っているとマーケットに新たに入っていくのは、なかなか難易度が高いのではと感じました。

新井 うちがターゲットとしているのは、いわゆる中間層の人たちです。実はここは、これから広がっていくマーケットであり、潜在的な可能性をまだまだ秘めている。そこへ向けての仕込みをしておけば、機が熟したときに大きな成果につながると考えたのです。言うまでもないことですが、シンガポールはアジアのハブとして大事な拠点であり、現地法人が作りやすい国であることも利点でした。

川島 シンガポールに店を開くことを決めた後、社員を現地に送りましたよね。

新井 現地のことは現地に住んでみなければ分からないと思い、2人の社員を2年間住まわせ、徹底的にリサーチしてもらいました。そうすることで、単なる統計数値や短期的なリサーチでは見えてこない、肌感覚で捉えられる情報がものすごくあるわけです。その感覚こそが、新しいものを作っていくときに役立つと捉えているのです。

 その意味では、アジア進出はルミネにとって、練習の一つだと思っています。スポーツの世界では、ひたむきな練習ありきです。企業によっては頭を使った記憶力の勝負ばかりを課すところもありますが、そこには独自の発想もなければ身体で覚えた感覚もないわけで、私はほとんど意味がないと思っています。

川島 練習ですか。確かに身体を動かしてみると、これができないのはここをこう使っていないからと具体的な動きが分かってきます。

新井 ビジネスの世界がいつも本番というのもおかしなことで、結果だけを追い求めるのはいいことではないと思うのです。企業に少しでも余裕があるのであれば、私は社員に練習の場と成長するための機会を創るべきだと考えています。

川島 そういう思いを持ったトップの下で働く若手は恵まれていますね。

新井 今はルミネに入社してくる社員の3割強くらいが、留学経験があったり帰国子女だったりするのです。すでに海外経験があったり、海外勤務を希望したりしている社員にチャンスを与えたいと考えています。一方で、アジア進出が必ずしも成功するとは思っていません。すべて計画通りに運ばないのが現実ですから、3年を一つのめどとして、可能性があるなら5年を次のめどにしようと考えています。

川島 いずれにしても明快な決断力ですね(笑)。次回はアジア出店について、さらに突っ込んで聞いてみたいと思います。

(写真/的野弘路)

■修正履歴
当初は「今はルミネの社員の3割強くらいが、留学経験があったり帰国子女だったりする」としておりましたが、「今はルミネに入社してくる社員の3割強くらいが、留学経験があったり帰国子女だったりする」に修正いたしました。本文は修正済みです。[2019/2/15 10:30]

第35回
ファクトリエ社長「やるリスクよりやらないリスクのほうが怖い」
第37回
シンガポールのルミネが現地客に好評 「中間層」に大きな可能性