あなたが勤務する企業のマーケティング部門では、広告クリエイティブや商品パッケージなどを複数の候補の中からどのように決めているだろうか。予算規模によっては、最終の意思決定は部長、あるいは経営幹部マターという会社もあるだろう。候補案から選ぶ企業のお偉いさんも、確固たる根拠があるわけではない。若手部員がその選択に違和感を感じても、別案が優れているエビデンスを示すのは容易ではない。そんな漠然とした「魅力」をAI(人工知能)を活用して数値化、解明する取り組みが始まっている。

180万実績を使い婚活をAIで支援 異性からの反応率は3倍!(画像)

 魅力を数値化する魅力工学プロジェクトが今、さまざまな業界で進んでいる。主導するのは、東京大学大学院情報理工学系研究科の山崎俊彦准教授。振り出しはアナログLSI(集積回路)の研究者で、「匠の技に興味があった。その後情報メディアの世界に接するようになり、例えば広告の巧拙など曖昧模糊とした魅力というものをAIで解明してみたいと思い、取り組むようになった」と語る。

 第1回は「婚活」ビジネスに焦点を当てる。山崎准教授は、結婚情報サービス大手IBJの協力を得て、男女のマッチング精度の向上で成果を得た。画像認識などのAI技術を活用し、会員プロフィルシート、「いいね」のやりとりなどから魅力度を算出し、要因を分析。IBJは得られた知見を基にカップル成立のアドバイスに生かす。   

 婚活では、プロフィルシートに自分の写真や年齢、職業、年収から趣味、自己PRを記入した会員が、その記入事項を基に希望する異性の条件を指定して検索する。条件をクリアした候補者の中から、お話ししてみたいと思った相手に「いいね」を送り、「いいね返し」があれば、オンラインシステムを通じてメッセージのやり取りが可能になる。オンライン会話を経て双方が実際に会ってみたいと思うところまで進めば、連絡先を交換し合うという流れだ。したがって、まずはいいね返しをもらうことが第一のハードルとなる。

 山崎准教授は、IBJがこれまで蓄積してきた会員プロフィルの中からアクティブなやりとりがあった男女各1万人のプロフィルを匿名化したデータと、いいね、およびいいね返しなどのやりとりの実績180万件を教師データに、機械学習を用いていいね返しをもらえる魅力を数値化し、分析した。

会員プロフィルシート、いいねのやりとり、マッチング履歴から魅力度を算出し、要因を分析。マッチング精度が高まるアルゴリズムを構築
会員プロフィルシート、いいねのやりとり、マッチング履歴から魅力度を算出し、要因を分析。マッチング精度が高まるアルゴリズムを構築

 いいねを押しに行くのは9割方男性からで、いいね返しがくるのは通常10%前後だという。なかなかシビアだが、そんな中でも平均より高い確率でいいね返しを受ける人がいる。また、めったにいいね返しをしない女性から返事を得る人もいる。彼らを魅力度が高い人として便宜上ハイスコアを付与し、どの項目が効いているかを突き止めていく。ハイスコアなAさんと平均的なスコアのBさんが似たようなプロフィルで、1点だけ記述内容が異なれば、それがスコアを左右する要素だ、という考え方である。ちなみに女性の場合は、「多くのいいねがくる」「ハイスコアな男性からいいねがくる」人がハイスコアとなる。

 男性の場合、予想通りというべきか、年収はいいね返し率を左右する要素だった(女性の場合は年齢)。身長や出身校、年齢は今さら変えられないし、年収も上げるのは容易ではない。ただ、記入の仕方一つでスコアアップにつながる可変な要素も見えてきた。女性ウケが良かったのが、海外駐在経験あるいは駐在予定あり、そして園芸の趣味だという。これらが当てはまる男性の場合は、プロフィルで触れておいた方がスコアアップ、すなわちいいね返し率が高まりそうだ。IBJの中本哲宏副社長は、「こうしたプロフィル記入のアドバイスに取り組んでいる」と語る。

マッチング精度が10%から30%超へ

 膨大な会員プロフィルといいね履歴の分析から、マッチング精度の向上も可能になった。前述のとおり、送ったいいねに対していいね返しを得られる率は10%前後だが、マッチング予測からAIが推薦する人にいいねを送った場合、いいね返し率を31%にまで高めることができた。AI魅力予測によって、婚活の最初のハードルはだいぶ下げられそうだ。

 次のハードルであるオンライン会話も研究が進んでいる。「文字数や返信タイミング、テンポなどのデータを取得し、連絡先交換に至ったかどうか、その成否を学習させることで、最初の10往復程度の会話(ダイヤログ)で連絡先交換の成否を84%の精度で予測できるようになった」(山崎准教授)。例えば、片方が一方的に長い行数のメッセージを送っていたり、返信間隔がしばらく空いたりしている場合、連絡先交換に至らない可能性が高い。最初の10往復の会話は、時候の挨拶などを経て具体的な会話に入って間もない段階だ。そこですでにAIは会話の行く末を予測できるようになった。

 また、急速に会話がトーンダウンする事例を分析することで、「離婚歴のある人に対して早々に離婚理由の説明を求める」「会話もそこそこに連絡先交換を迫る」などが連絡先交換に至らないことも見えてきた。「例えばメッセージのやりとりの際にキャラクターを登場させ、入力内容が会話を膨らませる良い内容のときは応援し、会話を途絶えさせかねない内容の場合は首をかしげるしぐさをするなど、リアルタイムに反応することで会話のサポートに活用できないか、検討したい」(中本副社長)。

 最後に顔写真について。プロフィルシートから関係構築が始まる婚活では、顔写真が与える印象、影響は大きい。山崎研究室では、フォトストックにある顔写真データをクラウドワーカーに委託して好みの顔を“採点”させたデータを保有している。これをディープラーニングで分析することで、顔写真を提示するとその魅力度を算出することができる。ポイントは、同じ人物でも履歴書に貼るような真顔より、少し笑みをたたえたやわらかい表情の写真の方が魅力度が高く、いいね返しを得やすくなることだ。IBJは、掲載写真のアドバイスをするほか、魅力度が高まる自然な笑顔に補正するソフトウエアも開発した。

 中本副社長は、「こうした技術を活用することで、以前ならマッチングしなかった相手と接点を持つ機会を少しでも増やしていきたい」と意気込む。一方、「良縁はAIが決める時代なのか?」と問うと、「AIが担うのはあくまで最初のきっかけづくりの支援」と説明する。連絡先を交換して以降、最終的に結婚に至るかどうかは双方のフィーリングや価値観が重要になる。ここは結婚カウンセラーによるサポートがまだまだ力を発揮する領域である。今後、マッチング精度のKPI(重要業績評価指標)を連絡先交換だけでなく、最終的に成婚に至ったかどうかにも置いて分析していくことで、「結婚できる婚活サービス」としての評判をより高めていきたい考えだ。