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「変なホテル」のブランディングを担当するGRAPHの北川一成氏と共に、広告やパッケージにとどまらない総合的なデザイン戦略の重要性を、実例を基に考える連載企画。今回は累計販売3000万食を突破した非常食のデザインの秘密に迫る。

 「サバイバルフーズ」は、25年間という超長期保存が可能な備蓄食だ。シチューや雑炊はフリーズドライ食品で、お湯だけでなく水でも戻すことができ、乾燥した状態のままでも食べられる。これまでの累計販売数は、3000万食以上。家庭をはじめ、全国1000以上の官公庁や自治体、病院、企業などが備蓄食として採用しているという。

 販売元は、東京に本社を構えるセイエンタプライズ。同社は1978年より米国企業から商品を輸入し、サバイバルフーズと名付けて販売。日本で長期保存食の市場を切り開いてきた。3年ほど前からは「日本の備蓄食は日本の技術で」という考えの下、フリーズドライ技術を持つ永谷園と共同で商品開発を開始。その後、米国企業との代理店契約を解消し、2018年6月1日から国内製造によるサバイバルフーズの販売を開始した。

 1978年の発売以来、サバイバルフーズのパッケージデザインは数回変更してきた。大きく転換したのは、2008年。セイエンタプライズの平井雅也代表取締役はブランドの再構築を目指し、GRAPHの北川一成氏に相談。ロゴやパッケージデザインを一新した。

 サバイバルフーズの魅力は、25年の超長期保存という機能性とおいしさを両立させていることだ。災害時でも日常と変わらない、おいしくて栄養バランスも良い食事ができるというところが最大の価値。北川氏は、そのことが直感的に伝わるデザインを考案し、販路拡大にも貢献したという。「08年のリニューアル後の売り上げは、約1.3倍に伸びた。小売店との商談もスムーズになり、取扱店舗が増えた」(平井氏)。

●現在発売中のパッケージデザイン
18年6月より販売しているサバイバルフーズ(国内製造)。小さい缶は2.5食分相当。大きな缶は10食分相当。左から、「洋風えび雑炊」「チキンシチュー」「クラッカー」「洋風とり雑炊」「野菜シチュー」
08年から18年5月まで販売していたサバイバルフーズ。このパッケージにリニューアルしてから「他社の備蓄食のパッケージでも、おいしさを表現したデザインが増えてきた」と平井氏

 永谷園との共同開発による商品のリニューアルでは、日本人の味覚に合わせて味わいも改良。それに伴い、パッケージデザインも従来のイメージを引き継ぎながらバージョンアップしている。そのデザインもGRAPHが担当した。

課題:災害時の食事こそ安心感を

 サバイバルフーズの特徴は、保存性とおいしさの両立だが、リニューアル前のパッケージデザインは、「おいしさ」が直感的に伝わりにくいという課題があった。そのことについて北川氏は次のように話す。

 「非常時、救援物資が届くようになって少し落ち着きを取り戻してくると、被災者には『おいしいものを食べて安心したい』という思いが芽生えてくると、平井さんから聞いた。にもかかわらず、サバイバルフーズという片仮名のロゴからは、サバイバルな状態を生き抜く力強さが最も強く伝わってくる。サバイバルという言葉の意味をストレートに表現しているからだ。実際、備蓄食は緊急時に食べるものなので、情緒的なデザインはふさわしくないという考えもある。だが、おいしさを伝える表現も、安心感をもたらすという意味ではとても機能的だと言える」(北川氏)。

 もう一つ、従来のサバイバルフーズの課題として北川氏が挙げたのは、価格とのギャップだ。一般的な備蓄食の賞味期限は、3年から5年程度。それと比較すると、サバイバルフーズの25年間という保存期間は圧倒的に長い。価格は、10食分の「チキンシチュー」が8400円(税別)。25年間、買い替える必要がないと考えれば決して高くないのだが、価格だけ見れば安くは感じられないのも確かだ。そのギャップを埋めるためにも、「価値に見合うように、上質でおいしそうと思わせるデザインが必要だと考えた」(北川氏)。

検討:一般名称を商標登録したい

 まず、ロゴのデザインから取りかかった。そのとき、サバイバルフーズという商品名を商標登録できていないという、新たな課題が分かった。

 セイエンタプライズでは、それまで何度も商標登録を試みたが、「『サバイバルフーズ』は一般名称なので登録できなかった」と平井氏は説明する。商品名自体は明快で非常食の分野では浸透しており、変更したくないという思いも強かった。

 25年もの超長期保存ができる競合商品がなかったことから、商標登録しないまま販売を続けてきたが、北川氏は「今後、認知度が上がれば、同じ名前の競合商品が出てこないとも限らない。ブランドとして確立させるためにも、商標は登録すべき」と提案した。

 GRAPHでは20年以上前から、知財戦略をブランディングの一環として捉え、積極的に取り組んできた。今回の案件についても、社内の弁護士資格を持つスタッフと社外の弁理士や弁護士とも連携し、名称を変更せずに商標登録できないか検討を重ねたという。その結果、見いだした方法が「SURVIVAL」だけで商標を取得する方法だった。

解決策:エレガントな備蓄食に変身

 マークは、シェフをモチーフにデザインした。ロゴは、古典的な欧文書体をアレンジ。緩やかにカーブを描き、エレガントな印象に仕上げた。

 登録商標であることが伝わるように、SURVIVALのロゴの後に®を入れている。SURVIVALとFOODSとの間の空白を多めに取り、SURVIVALの1語だけが商標であることを明確にしつつ、ロゴとして違和感がないようにデザインした。「商標登録することで、商品名を法的に守りつつ、『サバイバルドリンク』や『サバイバルスイーツ』など、将来的に横展開も可能になると考えた」(北川氏)。

 永谷園と共同開発した最新版の商品のパッケージは、08年にリニューアルしたデザインを基にバージョンアップ。おいしさをより強調し、商品写真を大きくした。「写真の色味はおいしさを表現するうえでも重要。これまでは米国で印刷していたので、色味のコントロールが難しく、写真はあえて小さくしていた。国内製造を機に、ラベルの印刷もGRAPHが担当することになり自分たちでコントロールできるようになったので、写真を大きく使用することにした」(北川氏)。


北川一成の分析

課題
・最もアピールしたい「おいしさ」が直感的に分かりにくい。
・商品の本質的価値が伝わりづらく、価格が高いと感じてしまう。
・商品名が商標登録できない。

検討
・災害時や緊急事態をイメージさせない、上質なグラフィックデザインを検討。
・商品名を変更せず、商標登録できる方法を弁理士や弁護士と共に模索。

解決策
・ロゴや商品説明の書体は古典的なフォントをアレンジして、シンプルで上質なデザインに。
・商標は「SURVIVAL」だけで登録。

デザインの限界をこう突破した!
 サバイバルフーズのパッケージは当初、保存性という機能を伝えることを重視したものだった。非常食のデザインとしては一般的な考え方だ。だが「おいしい食事が被災者に安心をもたらす」という観点からすると、おいしさを伝える力が不足していた。
 また、サバイバルフーズは、25年の超長期保存が可能なことを考えると長期的には決して高くないのだが、一般的な備蓄食と比べると高価格に見えてしまう。
 これらの課題を解決するには、非常食でありながら直感的に「上質でおいしそう」と感じさせることが重要だと考え、デザインを一新。商標登録できなかった「SURVIVAL FOODS」を「SURVIVAL」で商標登録し、ブランド保護を図るなど、デザインと知財戦略の両面でレベルアップを果たした。

クライアントの声

平井 雅也氏
セイエンタプライズ代表取締役。前職時代の1995年1月17日、神戸市東灘区の独身寮で阪神淡路大震災を経験。寮長として人命救助や避難所の運営に携わった。96年、日本の超長期保存食市場を開拓したセイエンタプライズに入社。2001年11月より現職


デザインを変えたことで商品の本質が伝わりやすくなった

 平井氏が北川氏に商品デザインの相談をしたのは、今から10年ほど前。「日経MJ」に掲載されていた北川氏のインタビュー記事を読んだことがきっかけだったという。「特にサバイバルフーズの売り上げが伸び悩んでいたわけではなかったが、将来のためにブランドの再構築を検討しており、デザインはその手段の一つだと考えていた。そんなとき見かけた記事の見出しが『売れるデザイン』だった。気になって読んでみると、北川さんが継ぐはずではなかった家業を継ぎ、経営を立て直したというエピソードも掲載されており、共感する部分が多かった。北川さんとは面識がなかったので、連絡先を調べて自ら問い合わせをした」と平井氏は言う。

 08年にロゴやパッケージデザインを一新したことについては、次のように話す。「商品の価値が視覚化されたので、商談でもサバイバルフーズの本質が伝わりやすくなった。商標登録については諦めていたので、『SURVIVAL』だけで登録できると聞いたときは驚いた。北川さんが提案してくれたサバイバルフーズの横展開のアイデアは、米国企業との代理店契約を解消したことで可能になった。今、その可能性を検討している段階」。18年より国内製造に切り替わり、海外へも販路を拡大する計画だ。現在、国内外の企業数社と商談中だという。

セイエンタプライズが00年から運営しているオンラインショップ「セイショップ」
東京・市ヶ谷にはショールーム兼店舗もある

(写真提供/GRAPH)

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