「変なホテル」のブランディングを担当するGRAPHの北川一成氏と共に、広告やパッケージにとどまらない総合的なデザイン戦略の重要性を、実例を基に考える連載企画。今回は小田原の鈴廣かまぼこ。原料高騰で実質値上げを余儀なくされるが、パッケージの刷新で逆に出荷量を伸ばした。

3月1日にリニューアルした鈴廣かまぼこの看板商品「小田原っ子」のパッケージ。関東を中心とする全国のスーパーで販売している。左が白、右が紅
3月1日にリニューアルした鈴廣かまぼこの看板商品「小田原っ子」のパッケージ。関東を中心とする全国のスーパーで販売している。左が白、右が紅
リニューアル前のパッケージ
リニューアル前のパッケージ

 鈴廣かまぼこ(以下、鈴廣)は1865年、神奈川・小田原で創業した老舗かまぼこメーカーだ。現在、鈴廣で製造している水産練り製品の数は、土産用の直販商品とスーパーで販売する流通商品を合わせると、200~300品あるという。その中で最も多く製造している商品が「板付きかまぼこの『小田原っ子』」(鈴廣蒲鉾本店 常務取締役 企画チーム本部長 鈴木智博氏)だ。

 小田原っ子は関東を中心に全国のスーパーで販売している商品で、参考価格は360円(税別)。保存料や化学調味料は一切使用しておらず、スーパーで販売されているかまぼこの中では高品質で高価格帯の商品。かまぼこ市場(首都圏)において、小田原っ子は売り上げ金額シェアで1位だという。

 そんな鈴廣の看板商品である小田原っ子のパッケージデザインが、2019年3月1日から新しくなった。それを担当したのがGRAPHの北川一成氏だ。

品質は下げず

 リニューアルのきっかけは、原材料費の高騰に伴い、かまぼこの容量を10グラム減らすことが決まったからだ。品質と価格はそのままだが、サイズが小さくなるため、スーパーの店頭で他社の商品と並んだときに見劣りしないように、パッケージデザインを変更することにした。実質的な値上げではあるが、容量変更と同時にフィルムの上部に開けやすいつまみを付けて機能性を高めるなど、商品性の向上に努めている。

 「これまでの経験から、容量を減らすと出荷数が落ちると見ていた」と、流通営業部の篠塚剛部長は打ち明ける。ところが、実際にはリニューアル後の3月、4月の小田原っ子(白)の出荷数は約3%増となった。「キャンペーンなどを実施せずに出荷数を伸ばすことができたのは、デザインの力が大きい。ポイントは、これまでのイメージを変えずに、店頭での存在感を高められたことだろう」(鈴木常務)。

課題:イメージを変えずに目立たせる

かまぼこの山を高く成形することは、小田原かまぼこの特徴の一つ。内容量を10グラム減らし、なおかつ山高な形を維持するために、小田原っ子のかまぼこ板は5ミリメートル短くなった
かまぼこの山を高く成形することは、小田原かまぼこの特徴の一つ。内容量を10グラム減らし、なおかつ山高な形を維持するために、小田原っ子のかまぼこ板は5ミリメートル短くなった

 数年前から、かまぼこの原材料の価格が高騰し続けており、鈴廣では価格や内容量を見直す必要があった。小田原っ子については、品質はそのまま維持し、価格は据え置くと決めた。内容量を10グラム減らして、かまぼこ板は5ミリメートル短くすることにした。小田原かまぼこは、かまぼこの山が高いことが特徴の一つ。これまでと同じようにかまぼこを山高に成形すると、板の長さを短くしなければならなかったのだ。

 サイズが小さくなるため、スーパーの店頭で他社製品と並んだときに目立たなくなることが懸念された。パッケージデザインを工夫することで、この課題を解決できないか──そう考えた鈴木常務は、会食を通じて知り合ったGRAPHの北川氏に相談。デザインから印刷まで一任できるGRAPHに、小田原っ子のブランディングを依頼した。

 北川氏は「例えば、同じ長さの線の両端に内向きと外向きの矢印を付けたものを見比べると、内向きの矢印が付いた線のほうが錯覚で長く見える。それと同様に、同じ絵柄でもレイアウトの仕方によって、サイズが小さくなったことが気にならず、店頭で目立たせることができる」と話す。

 小田原っ子は1971年から販売しているロングセラー商品で、長年買い続けているリピーターも多い。そのため鈴廣からは、これまでのイメージを変え過ぎないでほしいというリクエストもあったという。