日経クロストレンド調査「イノベーション300」の上位に入った資生堂や村田製作所、日東電工などのメーカーには、共通する1つのトレンドがある。それは都市部に新たな研究開発拠点を設けて、イノベーションを加速しようとしていること。そんな“街ナカ”研究所の実態を追った。

「資生堂グローバルイノベーションセンター:S/PARK(エスパーク)」の1~2階はコミュニケーションエリアとして一般の人も入れるようにした
「資生堂グローバルイノベーションセンター:S/PARK(エスパーク)」の1~2階はコミュニケーションエリアとして一般の人も入れるようにした

資生堂、一般客とのコラボレーションも狙う

 2019年4月、資生堂は研究・開発の新拠点「資生堂グローバルイノベーションセンター:S/PARK(エスパーク)」を横浜みなとみらい21地区に開設した。外部と共同研究する他、一般客と研究員が交流できる「場」を設け、オープンイノベーションを推進する。エスパークの目的は「多様な知と人の融合」を実現し、資生堂の新たな企業使命である「BEAUTY INNOVATIONS FOR A BETTER WORLD(ビューティーイノベーションでよりよい世界を)」の実現に取り組むことにある。同様なオープンイノベーションの施設は多いが、最大の違いは外部の企業や研究機関だけでなく、一般客とのコラボレーションを狙ったことだ。

 16階建てのうち、4階が他社や外部の研究機関とのコラボレーションエリアで5~15階は最先端の機器をそろえた研究フロア。だが、1~2階はコミュニケーションエリアとして一般客に公開し、3階は多目的ホールにした。資生堂の研究員と一般客が交流しながら、自然とひらめきを得られる作りにしている。1~2階はORANGE AND PARTNERSの小山薫堂氏がプロデュースし、デザインはnendoの佐藤オオキ氏が担当した。コンセプトは「美のひらめきと出会う場所」だという。

 1階は、付箋をモチーフにしたオブジェが飛び交うようにしているという。「上階ではじけた研究員のひらめきの知識や体験が下に降りていって蓄積されるイメージ。そこに対して一般の人々が集まり、コミュニケーションが発生し、それによって集積したものが飛び散って舞うようなデザインにした。そうして広がったアイデアが、巡り巡って上階の研究員達に返ることで、新たな刺激が生まれることを期待している」(nendoの佐藤オオキ氏)。

 例えば、1階の「S/PARK Beauty Bar」では、資生堂の研究員と美容部員が顧客の肌を解析しながら、その人の肌質や好みに合わせたオリジナルのコスメ(化粧水/乳液)を作る。ユーザーの生の声や、最新の肌データを高い品質で取得でき、研究にも生かせる。1階のフロア中央にはソニーの「Crystal LEDディスプレイシステム」を設置。サイズは世界最大級の19.2×5.4メートルで、壁面いっぱいにスクリーンが広がる。臨場感あふれる美しい映像で一般客を刺激することも、ひらめきにつながりそうだ。他にも、ランニングやウオーキングのプログラムを開催する「S/PARK Studio」、資生堂パーラーが運営するカフェ「S/PARK Cafe」、体験型のミュージアム「S/PARK Museum」など、美をテーマにしたさまざまな施設をそろえた。

 資生堂の島谷庸一副社長は、「テクノロジーは日々進化しているが、顧客の生活や購買行動もどんどん変化している。ユーザーの状況にも研究員が敏感でなければ、化粧品にイノベーションは生まれないと思い、横浜市に研究所を作った。こうした都市型の施設をオープンすることで『研究者は白衣を着てフラスコを持っている』といった従来のイメージを変えたい」と同センターの発表会で話した。R&D領域の投資を強化しながら、長期目標として売上高2兆円、営業利益3000億円を目指す。今回の新研究開発拠点やすでに欧米やアジアにある研究所の所員数は20年をめどに1500人を目指すという。

S/PARK(エスパーク)の総工費は約400億円。名前の由来は「多様な人々が世界中から集う“資生堂のパーク(公園)”」、そして「その出会いから生まれるインスピレーションが“スパーク”する場所」だという
S/PARK(エスパーク)の総工費は約400億円。名前の由来は「多様な人々が世界中から集う“資生堂のパーク(公園)”」、そして「その出会いから生まれるインスピレーションが“スパーク”する場所」だという
壁面には世界最大級のソニー「Crystal LEDディスプレイシステム」を設置。19.2×5.4メートルのスクリーンで、臨場感のある映像を届ける
壁面には世界最大級のソニー「Crystal LEDディスプレイシステム」を設置。19.2×5.4メートルのスクリーンで、臨場感のある映像を届ける
「Beauty Bar」では、資生堂の研究員と美容部員が、ユーザーの肌質や好みに合わせてオリジナルのコスメ(化粧水/乳液)を調合
「Beauty Bar」では、資生堂の研究員と美容部員が、ユーザーの肌質や好みに合わせてオリジナルのコスメ(化粧水/乳液)を調合
4階には、他社や外部研究機関とのコラボレーションエリアを設けた。国内外の外部研究機関などと資生堂の研究員が共同研究できる。外部の研究機関が常駐することも可能
4階には、他社や外部研究機関とのコラボレーションエリアを設けた。国内外の外部研究機関などと資生堂の研究員が共同研究できる。外部の研究機関が常駐することも可能