※日経トレンディ 2019年6月号の記事を再構成

連載「令和のヒットをつくる人」の1回目は、2019年6月18日に最終回を迎えるドラマ「わたし、定時で帰ります。」のプロデューサー、新井順子氏。18年は「アンナチュラル」「中学聖日記」と、ドラマの常識を打ち破る作品を世に送り出した。ドラマが話題になるだけではない。新井氏により中学聖日記の準主役に抜擢(ばってき)された新人俳優の岡田健史は、これを機にブレイク。「視聴率よりも、記憶に残る作品を作りたい」という新井氏が心がける、ドラマ制作の極意とは。

TBSスパークル エンタテインメント本部
ドラマ映画部 プロデューサー

新井順子

大阪府生まれ。2001年、ドリマックス・テレビジョン(現TBSスパークル)入社。「リバース」「私 結婚できないんじゃなくて、しないんです」「Nのために」(いずれもTBS系)などをプロデュース。18年、「アンナチュラル」で第55回ギャラクシー賞テレビ部門・優秀賞などを多数受賞

『自分でもドSだなと思うこともあるが
作品に必要なら、困難な撮影にも挑戦する』

 「あるある、これ私も思っていた!」。自分のことのようにリアルなドラマ「わたし、定時で帰ります。」。働き方改革がどの職場でも課題となっている今、視聴者が年代を超えて、我が事のように仕事との向き合い方を議論するきっかけとなっている。

 このドラマをプロデューサーしたTBSスパークルの新井順子氏は、今、多くの斬新なドラマを連発するキーパーソン。その代表が、法医学ドラマ「アンナチュラル」だ。

 18年1月期に放映され、ギャラクシー賞やコンフィデンスアワード・ドラマ賞、ザテレビジョンドラマアカデミー賞など、多数の賞をさらった。不自然死の原因を研究する法医学の研究所を舞台に、さまざまな「死」と、その裏にある謎に迫るドラマは、一話完結でありながら、緻密な伏線が張り巡らされ、その完成度が高く評価された。放送のたびにSNSで話題となり、最終回終了後にツイッターでファンによる架空の「#アンナチュラル11話」がトレンド入り。主題歌として書き下ろされた米津玄師の「Lemon」は、18年の主要ランキングを総なめにし、今もその勢いは止まらない。

 アンナチュラルは、事件捜査の裏方である法医学者が主役。最近人気の、刑事や弁護士が主役のドラマと違って、犯人ではなく死因を探さなくてはならない。

 「ついストーリーを作るときに、犯人を探す事件モノの発想になってしまう。それが一番難しかったところです」

 多くの人にとって未知の「法医学」の世界をリアルに描くために、専門家への念入りな取材も必須だった。例えば過労死の話で三者が責任をなすりつけ合う設定にしたい場合、どんな状況や死因が考えられるのかなど、他のドラマに比べて取材がはるかに多かった。

 主題歌「Lemon」も効いた。米津玄師の起用には、若い視聴者を取り込みたい思いもあった。「心に響くものを」とのリクエストで完成した曲は、毎回悩み抜いてドラマの秀逸なタイミングで挿入された。「第4話、バイクが転倒するまでの、セリフのないシーンでこの曲をかけた時、大ヒットの予感がした」。

 結果、ツイッターなどSNSでの反応の熱さは、回を重ねるごとに感じていった。フォロワー数は、ドラマ終了後約1年たった今も約26万人。その理由の一つは、井浦新が演じた“中堂さん”だ。3話で石原さとみ演じる主人公を手助けし、法廷で悪態をついてから人気が爆発した。

 「井浦さんはこれまで髪をきっちりセットした役が多かったけれども、それはやめようと考えていました。衣装合わせのときに、井浦さんがボサボサにもできますよ、と髪をくしゃくしゃにしてくれて『これだ!』と(笑)。中堂さんの写真をアップすると“いいね”の数もすごかったです」

「アンナチュラル」
「アンナチュラル」
2018年1月期。野木亜紀子脚本の法医学をテーマとしたミステリードラマ。架空の研究機関、不自然死究明研究所(通称UDIラボ)を舞台に、さまざまな死の謎を解明する(写真提供:TBSスパークル)