東海テレビから名作ドキュメンタリーが誕生する最大の理由

佐々木 『さよならテレビ』の制作期間はどのくらいだったんですか?

土方 全部で「1年7カ月」です。

佐々木 1年7カ月!? そんな撮影期間を持てるのは、おそらく東海テレビ以外ないですよ。

土方 報道局なので、ロケは普段のニュースの予算でやりくりするケースもあったり、その日、特に何も動きがなければニュースの取材をやるし、ドキュメンタリーの取材をする日もあるという形になっています。だから、毎回、カメラを発注して、1日いくら経費がかかるというわけじゃないんです。

佐々木 ドキュメンタリーもニュースのロケも「お財布が一緒」ということですね?

土方 いえ、ニュースとドキュメンタリー。大きなお財布と小さなお財布があって、上手に使うということですかね。だから、長期ロケも可能なんです。

佐々木 そこが、間違いなく東海テレビ・ドキュメンタリーの“特異性”ですね。絶対そうですよ!

土方 「何が他と違うか?」といったら、僕も一番は「制作期間の長さ」だと思います。圧倒的にその点ですね。

『さよならテレビ』土方ディレクター(左)と中根芳樹カメラマン(右)(C)東海テレビ
『さよならテレビ』土方ディレクター(左)と中根芳樹カメラマン(右)(C)東海テレビ

佐々木 普通の小さなデジカムでディレクターがセルフドキュメンタリー風に撮るなら、それだけの長期間、撮影を続けることも可能ですが、ちゃんとしたプロのカメラマンがENG(業務用カメラ)で1年7カ月もの間、ロケをするなんて、普通はあり得ないですよ。例えば、1日1チェーン(ディレクター、カメラマン、音声などの撮影1班)出すと十数万円以上かかるので、移動費を含めれば1日20万円前後の経費がかかる。だから、そんな長期でドキュメンタリー制作ができる放送局は、東海テレビくらいしかないんじゃないかと思います。でも、「東海テレビのドキュメンタリーが、どうして他と違い、こんなにクオリティーが高いのか?」という理由は、確実にそこにありますね。

土方 僕もそう思っています。他との比較はともかくとしても、自分たちが納得できるもの、作品性が高められている要素というのは、そこかなと。

佐々木 阿武野さんや土方さんが手がけられている東海テレビのドキュメンタリーは、報道局で作られていることが大きいですね。毎日、ロケに出られる状況があるという。

土方 そこが大きな特徴ですし、極論をすればそこに尽きるかと。

『さよならテレビ』より(C)東海テレビ
『さよならテレビ』より(C)東海テレビ

佐々木 でも、なぜかその部分って、これまであまり触れられていないですよね? 本当はその条件が一番、大きいと思うんですけど。

土方 僕も一番はそこだと思っていて、いろんなところでよく話すんですけど、ピンとこない人が多くて。それよりもディレクターが何をしたとか、そういう話を聞きたがるんです。でも、実際は「制作期間の長さ」が大きいと思います。

佐々木 テレビ業界や映像コンテンツについてよく知らない人って、「たくさん素材を撮った方がいいものができそうだから、毎日、ロケに出るものなんでしょう?」と思っているかもしれませんが、そんなことをしたら予算的に成り立たないですから。でも、普通はできないことを、東海テレビは報道局のスキームの中で実現しているのがすごいですね。

土方 あと、ドキュメンタリーの制作中は、基本的にはその番組のディレクター業に専念させてもらえます。今も僕の後輩で1人、ドキュメンタリーの取材をやっていますけど、基本的にはニュースの仕事から外れてやっています。

佐々木 「いかにして面白い番組は生まれるのか?」を考えたとき、ロケに関しては明らかに他と違うスキームで制作しているのが東海テレビのドキュメンタリーなんですよね。まともにロケの経費を計算したら成り立たないぐらいの日数だから。

土方 もちろん、プロデューサーは予算管理の意識は持っていると思いますけど、いいか悪いかはさておき、ディレクターレベルにはそういった話は下りてこないので、費用対効果とか、そういうことを考えずに純粋に番組作りと向き合っています。そこに資本の論理が入ってくると、たちまち「コストパフォーマンスが悪い」という話になって、「必ず番組は映画化して、ペイラインはいくらだ」とか言い出すようになる。もしそうなると、東海テレビのドキュメンタリーは終わると思っています。

(構成/佐々木 健一、人物写真/中村宏)