MaaS発祥の地であるフィンランドには、MaaSグローバル以外にも有力ベンチャーが存在する。その1つが、Kyyti(キーティ)。都市郊外や地方部を対象とした「Rural MaaS(ルーラル マース)」に取り組み、スーパーマーケットとコラボした「小売りMaaS」構想を持つユニークな企業だ。日本進出にも意欲を示すKyytiのMaaS戦略とは?

出典:Kyytiの投資家向け説明資料より転載
出典:Kyytiの投資家向け説明資料より転載
記事インデックス
  • 「ソフトバンクとトヨタ自動車の合弁会社、モネ・テクノロジーズを彷彿とさせる」Kyytiの戦略
  • 「日本の地域や企業にとって非常に示唆に富む」
  • 小売企業が自らMaaSに取り組む3つのメリット
  • イオンやニトリ、ファーストリテイリングなど、全国展開する小売企業に有望なビジネスモデル

 Kyytiは、MaaSグローバルと同時期(16年、当初の企業名はTuup)に設立された。マルチモーダルな交通手段をワンストップで提供するMaaSアプリ「Kyyti」を開発、提供している点は、MaaSグローバル(アプリは「Whim(ウィム)」)と同様だが、その戦略やターゲットとする市場は対照的だ。

 まず、MaaSグローバルがWhimブランドでの展開にこだわっているのに対し(関連記事「19年初上陸 MaaSグローバルCEOが語る日本戦略」)、Kyytiはパートナー企業のブランド名でアプリを展開するホワイトレーベル戦略を取る。あくまで“黒衣役”に徹し、MaaSのプラットフォームを提供することに資源を集中しているのだ。

 このためKyytiは、自らをMaaSオペレーターではなく、MaaSプラットフォーマーと定義する。また、MaaSグローバルがBtoCビジネスに集中しているのに対し、KyytiはむしろBtoBあるいは、BtoG(地方公共団体)に商機を見いだしている。

KyytiのMaaSプラットフォーム概念図(出典:Kyytiの投資家向け説明資料より転載)
KyytiのMaaSプラットフォーム概念図(出典:Kyytiの投資家向け説明資料より転載)

 もう1つの特徴は、Kyytiは乗り合い交通のシステム(Kyyti Rideと呼んでいる)を交通事業者に提供していることだ。Kyyti Rideは、専用のバン(9〜12人乗り)を活用したデマンド型の乗り合いサービスで、バスとタクシーの中間に当たる、いわゆるマイクロトランジットと言える。

 この新たな交通サービスをテコに、公共交通やカーシェアリング、レンタカーなどとつなげ、マイカーに頼るしかなかった郊外や地方部の生活の利便性を高めること(=「Rural MaaS」)をKyytiは目指している。この点も、すでに公共交通が十分に整備された都市部での「Urban MaaS」を志向するMaaSグローバルとの大きな違いだ。

 すでにフィンランドのポルヴォー(ヘルシンキから50キロメートル離れた人口約4万9000人の地方都市)や、ロビーサ(同80キロメートル離れた人口約7000人の小都市)では、「Kyläkyyti」(キラキーティ、Village Rideの意)というブランド名で、Kyytiのマイクロトランジットが提供されている。

 また、スイスのブルック(チューリッヒから40キロメートル離れた人口約1万人の小都市)でも、「Kollibri」(コリブリ、ハチドリの意)の名で展開。どちらもKyytiがアプリをホワイトレーベルで提供し、マイクロトランジットを核にしながら地域の交通機関をマルチモーダルで利用できるMaaS環境を実現している。

 Kyläkyytiはフィンランドの国営イノベーションファンド、SITRA(シトラ)が資金を援助し、Kollibriはスイスの国営バス会社Post Auto(ポストオウト)がスポンサーとなっている。どちらも両国の地方部を中心にサービスが拡大していきそうだ。ちなみに、筆者がスイスを訪れた際、Post Autoの担当者は、「効率的に地域の交通網を形成できる」と、Kyytiとのコラボレーションを高く評価していた。

Kyytiのシステムを活用したマイクロトランジット「Kollibri」の車両(出典:Kollibriホームページより転載)
Kyytiのシステムを活用したマイクロトランジット「Kollibri」の車両(出典:Kollibriホームページより転載)
「Kyläkyyti」のアプリ画面(出典:Kyytiの投資家向け説明資料より転載)
「Kyläkyyti」のアプリ画面(出典:Kyytiの投資家向け説明資料より転載)
KyytiのCEO、ペッカ・モット氏
KyytiのCEO、ペッカ・モット氏

 このようなマイクロトランジットを核にRural MaaSを推進するKyytiのアプローチは、ソフトバンクとトヨタ自動車の合弁会社、モネ・テクノロジーズの戦略を彷彿(ほうふつ)とさせる。日本との違いとしては、欧州では公共交通を税金で賄うことが前提になっていることだ。このため、地方自治体や公共交通事業者をパートナーにしてビジネスを展開するKyytiの戦略は、手堅いものとして高く評価されている。

 Kyytiのペッカ・モットCEOは、格安長距離バス「Onni Bus(オニバス)」でフィンランドのバス業界に革命を起こした風雲児だが、同氏が経営に加わってからKyytiはBtoCからBtoB、BtoGに戦略をシフトしてきたという。Onni Busを通じて地方部の交通問題を熟知していたペッカ氏ならではの判断であり、それが功を奏している。