小田急電鉄が、経路検索サービスのヴァル研究所の支援のもと開発しているMaaSの共通データ基盤「MaaS Japan(仮称)」。今回新たに、他の鉄道会社や航空会社、タクシー配車サービスを手掛ける5社の参画が決まった。複数の交通事業者がオープンに連携する枠組みが具体的に動き出し、「日本版MaaS」の実現が大きく前進する。

小田急を起点としたMaaS連合が誕生する。写真中央は小田急のロマンスカー、左上から時計回りに、JAL、JR九州の新幹線、遠州鉄道、ディー・エヌ・エーの「MOV(モブ)」(JAL・九州新幹線写真/Shutterstock)
小田急を起点としたMaaS連合が誕生する。写真中央は小田急のロマンスカー、左上から時計回りに、JAL、JR九州の新幹線、遠州鉄道、ディー・エヌ・エーの「MOV(モブ)」(JAL・九州新幹線写真/Shutterstock)

 今回、参画を決めた鉄道会社は、九州新幹線やユニークな観光列車などで知られる九州旅客鉄道(JR九州)と、浜松市を南北に走る遠州鉄道の2社だ。JR九州は2019年3月に発表した「中期経営計画2019-2021」の中でMaaSへの挑戦を明らかにしていた。

 両社は今後、小田急が開発している共通データ基盤MaaS Japanに、運行情報や、乗車券・特急券・企画乗車券などのチケット情報、沿線の観光・商業といった施設情報などを提供する。両社は小田急が開発するMaaSアプリを活用することで、MaaSの展開を目指す。

 また、MaaS Japanとシステム連携する交通サービスとしては、航空業界から初めて日本航空が参加。タクシー配車サービスでも、Japan Taxiとディー・エヌ・エー(サービス名は「MOV(モブ)」)が名乗りを上げた。19年秋に計画されている小田急の実証実験(箱根エリア、新百合ヶ丘・町田エリア)で提供されるMaaSアプリを皮切りに、JAL便の運航情報の表示や、タクシーの予約・配車・決済サービスが可能になる予定だ。

共通データ基盤となるMaaS Japanの新たな枠組み
共通データ基盤となるMaaS Japanの新たな枠組み

 そもそも共通データ基盤のMaaS Japanとは、経路検索エンジンや地図、決済など、MaaSの基本となるデータ・機能はもとより、鉄道やバス、タクシー、カーシェアリング、航空といった個別の交通モードのデータをAPI連携によって取りまとめ、MaaSアプリとの間で情報のやり取り、記録を可能にするもの。通信ネットワークでいうところの「ハブ(中継器)」のような存在であり、MaaSアプリの土台となるものだ(上図参照)。

 この上に載って直接ユーザーとの接点になるMaaSアプリを含め、小田急は開発をしている。それらを、MaaSアプリの提供を目指す他の鉄道会社など、いわゆるMaaSオペレーターに開放する方針を19年4月に打ち出していた。その第1号が、JR九州、遠州鉄道というわけだ。すでに関東や関西エリアに関しても、数社の私鉄で参画に向けた具体的な検討が進んでいるもようだ。

 これらのMaaSオペレーター参入企業が、MaaS Japan活用に動く理由は大きく2つある。1つは、1社で取り組むと全体で数億円かかると言われるMaaSアプリの開発コストを大幅に削減できること。例えば今秋、小田急が提供を始めるMaaSアプリをそのまま使う場合は、開発費用がほとんどかからない。「経路検索や地図利用、サーバーメンテナンスなど、ランニングコストの実費を月額いくらかで応分負担する仕組み」(小田急電鉄 経営戦略部次世代モビリティチーム統括リーダーの西村潤也氏)と言う。小田急が開発するMaaSアプリには同社の名称が入らないため、小田急の“色”がつくこともない。

 その他、MaaS Japanの活用パターンとしては、MaaSアプリのロゴや背景などUI(ユーザーインターフェース)をカスタマイズする「ホワイトレーベル」による開発、MaaS Japanをベースにアプリ部分だけを独自開発することも想定されている。いずれも運用コストの実費負担は必要だが、数億円のMaaS開発費用を最低でも半分以下に減らせるのが利点だ。

 また2つ目の理由としては、MaaS構築のハードルが低くなり、実現スピードがぐっと速まることがある。今回参加を決めたJAL、Japan Taxi、DeNAのように、複数の交通サービスとのシステム連携がデータ基盤であるMaaS Japanとの間で担保されるため、MaaSアプリの提供を目指す鉄道会社などが、個別の交通サービスとの技術的な連携を一から検討する必要がなくなる。すでにMaaS Japanには、カーシェアリングのタイムズ24、自転車シェアリングのドコモ・バイクシェア、電動車いすのWHILLも参加を決めており、多様な移動ニーズに応える体制をそろえやすい。

 MaaS JapanをベースとしたMaaSアプリの具体的な利用イメージは、小田急が今秋にも発表する予定。A地点からB地点への移動ニーズに対し、複数の交通サービスを組み合わせた最適な経路の提案、予約・決済(当初はクレジットカード)を可能にするだけではなく、「観光や買い物といったシーン別に移動の目的から探し、それに必要な交通手段を合わせて旅行パッケージ商品のように提案する方向も考えている」(西村氏)と言う。

 その際、鍵となる観光施設や商業施設、イベントなどのデータは、小田急の他、今後参加するJR九州、遠州鉄道などがそれぞれ用意することになる見込み。また、一定区間乗り放題のフリーパスや、各種施設の割引クーポンといったデジタルチケットも、同様に各社で企画し、MaaS Japanにデータ登録する形になるだろう。

 例えば、小田急沿線の商業施設にバスで向かうユーザーに対して、運賃分の割引クーポンを発行して「ゼロ円バス」を実現することなども可能になるという。いずれにしろ、さまざまな交通手段と、観光や生活サービスをMaaSアプリで可視化し、シームレスにつなげることで、沿線の移動需要を喚起するのが狙いだ。