アリババ集団が運営するクラウドサービス「アリババクラウド」のもう1つの売りが、主要産業ごとに特化したAI(人工知能)が様々なビッグデータを分析して、利用企業に具体的な成果をもたらすソリューション「ETブレーン」だ。2019年からは短期的な収益拡大と長期的なブランド向上を両立させる新たなフェーズに入った。

ETブレーンを解説するアリババクラウドのサイト
ETブレーンを解説するアリババクラウドのサイト

 2018年に達摩院(Alibaba DAMO Academy)を設立し、AI(人工知能)に関わる基礎研究の推進体制を整備するなど、アリババ集団(アリババグループ)は、AIの研究とそのビジネスへの応用に、これまでも力を注いできた。

アリババクラウドでAIの研究開発を担当するチーフ・マシン・インテリジェンス・サイエンティストのワンリー・ミン博士
アリババクラウドでAIの研究開発を担当するチーフ・マシン・インテリジェンス・サイエンティストのワンリー・ミン博士

 その達摩院で得られた成果を応用し、実際のビジネスとして展開する役割を負うのが、アリババ集団が運営するクラウドサービス「アリババクラウド」であり、具体的なAI活用ソリューションが「ETブレーン(Evolutionary Technology Brain)」である。ETブレーンは、企業自身が所有するデータはもちろん、第三者から入手可能な様々なビッグデータも収集してAIで分析し、ETブレーンを利用する企業に対して、「数字ではっきりと分かる成果を提供すること」(アリババクラウドでAIの研究開発を担当するチーフ・マシン・インテリジェンス・サイエンティストのワンリー・ミン博士)を目指している。

6つの産業向けにソリューションを提供していることを示すアリババクラウドのWebサイト
6つの産業向けにソリューションを提供していることを示すアリババクラウドのWebサイト

 ETブレーンは産業別に細分化したソリューションとして提供されており、2019年3月現在では、都市向け(ETシティー・ブレーン)、製造業向け(ETインダストリアル・ブレーン)、医療向け(ETメディカル・ブレーン)、環境関連向け(ETエンバイロメント・ブレーン)、航空産業向け(ETアビエーション・ブレーン)、金融向け(ETファイナンシャル・ブレーン)の6つが、それぞれソリューションとしてラインアップされている。

製造業向けソリューションに特に注力

 その中でもアリババクラウドが特に普及に力を入れているのが、競合他社に先行して17年から開発に取り組んできた、伝統的な製造業向けの「ETインダストリアル・ブレーン」だ。まずは、各種センサーから得られたデータや、カメラから得られる映像データ、パソコンで生成されたデータ、スマートフォン由来のデータなど、当該企業が保有している既存のデータをAIで分析。既存データだけでなく、新たに生成されたデータも加えて解析を重ね、コストの削減や生産効率のアップ、良品(歩留まり)率の向上といった成果を数字で示せるような施策を打つ。

ETブレーン具体的な成果を数字で示すアリババクラウドのWebサイト
ETブレーン具体的な成果を数字で示すアリババクラウドのWebサイト

 例えば、香港に本社を置き、主に中国国内で太陽光発電システム向けのシリコンウエハーを生産するエネルギー企業グループの1社、GCL-polyという企業では、ETインダストリアル・ブレーンをウエハーの製造プロセスに導入することで、年間を通じて良品率を1%改善できた。この結果、「年間営業利益を約1億元(約16億7000万円)引き上げることができた」(ミン博士)という。

 また中国の大手タイヤメーカーであるZC rubberという企業では、ETインダストリアル・ブレーンをゴムの製造プロセスに導入。データ分析から最適なパラメーターを導き、ゴムの混合プロセスを調整した結果、「ゴムの生産効率を、それまでに比べて5%改善できた」(ミン博士)という。

 こうしたこの2年の取り組みは、アリババ集団のエンジニアが顧客企業の元に出向き、そのニーズをくみ取ってETインダストリアル・ブレーンをカスタマイズする形を取ってきた。その過程でアリババ集団は、「商品化するまでの複雑な製造プロセスの中で数多く起こる問題の中から、何が最大の問題なのかを見極めるノウハウを得た」(ミン博士)という。

 製造プロセスにおける最大の問題を解決できれば、ETブレーンを導入した企業が得られる効果は大きい。しかし、こうした問題は技術的なことより経営判断が絡むことが多く、エンジニアの考える手法だけでは問題の解決に至らないケースも少なくない。アリババ集団の場合、問題の所在が分かったら実行可能性をまず検証し、可能ならば実行するし、難しければその問題を回避して他の手立てで成果を上げるようにして、ノウハウを蓄積してきたわけだ。