※日経トレンディ 2019年4月号の記事を再構成

中国の春秋戦国時代を舞台とした超大作漫画『キングダム』の実写映画が、4月19日に公開になる。この大プロジェクトを率いるのは、松橋真三プロデューサー。2017年に、人気漫画『銀魂』の映画化でヒットを記録し、不可能といわれる漫画の実写化を見事に成功させた猛者だ。壮大なスケールの中国史の世界を再現するべく、まず彼が奔走したのはスポンサーの獲得だった。

©原泰久/集英社 ©2019映画「キングダム」製作委員会
©原泰久/集英社 ©2019映画「キングダム」製作委員会
映画『キングダム』 4月19日全国東宝系にてロードショー
原作/『キングダム』原 泰久(集英社「週刊ヤングジャンプ」連載)
監督/佐藤信介 脚本/黒岩 勉、佐藤信介、原 泰久
出演/山﨑賢人、吉沢 亮、長澤まさみ、橋本環奈、大沢たかお他
映画『キングダム』プロデューサー「日本のコンテンツを世界に」(画像)
松橋真三氏
映画プロデューサー

早稲田大学法学部卒業後、WOWOW入社、後に独立。映画『バトル・ロワイアル』の協力プロデューサーをスタートとし、『ただ、君を愛してる』『パラダイス・キス』『るろうに剣心』『黒執事』『オオカミ少女と黒王子』『銀魂』など20本以上の映画、ドラマを企画・プロデュース

 かの名作『タイタニック』を手がけた経験のあるソニー・ピクチャーズ エンタテインメント、コロンビア・ピクチャーズ代表、サンフォード・パニッチ氏から「日本映画を作りたい」と打診がありました。そのとき私は、「このまま奴隷でいるのか、修羅の道を歩み自分と一緒に中華統一を目指すか」と、信に選択を促す政になりきりました。パニッチ氏に、「枠を埋めたいか、それとも革命を起こしたいか」という選択を提示したんです。彼が「革命」と答えたので、私は迷わず『キングダム』を提案。彼は『タイタニック』のときに、ものすごい予算オーバーをものともしなかった人ですから。この人となら、日本映画の常識を超えた大作を成功させられる、と。

 傑作であればあるほど、漫画の実写映画化には反対が付きまといます。漫画の世界観を蹂躙(じゅうりん)されるんじゃないか、と。でも、そこにとどまっていていいんでしょうか。世界的に見ると、日本はコンテンツの宝庫であるにもかかわらず、素晴らしい漫画やアニメがその世界で完結してしまっているという現状があります。

 漫画『るろうに剣心』が映画化されたとき、200万部以上発行部数が増えたと聞きました。傑作はそのままの形で大事に箱にしまい込んで眺めるのではなく、掘り起こして現在のテクノロジーでブラッシュアップし、繰り返し世に出していくべきなんです。『るろうに剣心』は何年も前の作品でしたが、世界に目を向けると『バットマン』や『アベンジャーズ』など、はるかに古いコミックスから超大作の映画シリーズが誕生している。中国、インド、東南アジアの国々が、自国のコンテンツをどんどん世界に発信している中で、傑作をファンだけで楽しんでいては、あっという間に取り残されてしまいます。「コンテンツの宝庫、日本」という事実が、過去の遺物になっていいわけがない。政が「中華統一する」と宣言したように、私には、日本のコンテンツを世界に広めるというミッションがあります。

 ファンが「これなら映画化されてよかった」と納得できる作品のために不可欠なのは、原作の持つエネルギー、メッセージ、スケール感を曲げずに伝えること。そのために、映画のストーリーは単行本の5巻まで、という思い切った決断をしました。『キングダム』のメインキャラクターの一人である羌瘣(きょうかい)は登場しない、前半のクライマックスである「王騎(おうき)の死」もない(笑)。それでも十分に面白くなるという確信がありました。僕はこのパートを勝手に“友の章”と名付けています。信は大切な友である漂を失う。しかし、その友は自分の中にずっと生きている。その思いがあるから戦える、という部分を丁寧に描きたかったんです。

 映画化の最初のステップは、3年前。まず台本の調査をしました。キャストも決まっていない段階で台本を作り、マーケット調査をして投資に値するかを審議するハリウッド方式です。その結果、「素晴らしい作品」という評価を得たのですが、映画化のためには原作に改変を加えなければならないところが出てきた。この時点で台本を持って、作者の原泰久先生に相談したところ、脚本に参加して一緒にクリアしたいという、願ってもないオファーをいただきました。原作者が脚本に参加するという異例の作り方ができたのは、先生の人柄と情熱のたまものです。

俳優をスターにするのも仕事

 主役の信は、最初から山﨑賢人君というイメージがありました。私が考える信は、まさにエネルギーの塊。才能を持っていて、周囲が彼を良い方向に導けば予想以上の働きをする。山﨑君もまさにそう。根がピュアで強い芯を持ち、本人と役柄の属性が一致すると圧倒的な力を発揮する。

 楊端和(ようたんわ)も、長澤まさみさんしかいないという確信がありました。彼女は日本版のワンダーウーマンですよ。アクションが初めてというのが信じられないくらいはまり役でした。大沢たかおさんも、王騎ができるのはあなたしかいない、と説得しました。彼は受ける仕事を吟味する俳優ですが、原作を読んで快諾してくれました。王騎のすさまじいカリスマ性を表現するために、肉体改造のトレーニングを行い、17kg増量したという徹底ぶりです。

 課題だったのは、政です。僕には最初から政は吉沢亮君だ、という思いがありました。圧倒的な美男子で、演技もすごくうまい。そして内には強いエネルギーを持っている。ところがその段階では、名前が知られていなかったんです。大きな投資をする映画で、知名度のない俳優を起用するのはリスキーだという意見もありました。その不安を払拭するために、彼がスターになるための一翼を担うと決めた。『銀魂』はじめ、数多く映画に出てもらい、今では大注目の俳優に成長しました。スターというものは、自然にできるものではない。周囲が良い方向に誘導していく必要があるんです。

 映画を作り始める前にさまざまなマーケットリサーチを行いますが、結果はあくまでそのときのもの。映画が完成する3年後を予想し、ボルテージが最高潮になるように仕掛けていくのも私の仕事です。映画の公開後は「政は吉沢亮でしかあり得ない」と、誰もが納得するはずです。