「六甲アイランドスカイ」「水道筋マルシェブルー」「神戸ヒメアジサイ」。これらは、万年筆用インク「Kobe INK物語」の色名だ。兵庫・神戸にちなんだ鮮やかな色が人気を呼び、年間3万個が売れるヒット商品になった。2007年の発売以来、1年に約6色ずつ新色を追加。現在72色を展開する。

「Kobe INK物語」の人気カラー。左から「六甲アイランドスカイ」「水道筋マルシェブルー」「神戸ヒメアジサイ」。日本の他、米国、英国、オーストラリア、ニュージーランド、フィリピン、マレーシア、台湾に販路が広がっている。地域の色を価値として商品化し、新たな顧客を創造したことを理由に、第10回日本マーケティング大賞(主催:日本マーケティング協会)の奨励賞を2018年4月に受賞した
「Kobe INK物語」の人気カラー。左から「六甲アイランドスカイ」「水道筋マルシェブルー」「神戸ヒメアジサイ」。日本の他、米国、英国、オーストラリア、ニュージーランド、フィリピン、マレーシア、台湾に販路が広がっている。地域の色を価値として商品化し、新たな顧客を創造したことを理由に、第10回日本マーケティング大賞(主催:日本マーケティング協会)の奨励賞を2018年4月に受賞した

 開発したのは、オリジナル万年筆などの文具の企画販売を手掛けるナガサワ文具センター(神戸・中央、以下、ナガサワ文具)。同社は現在、神戸や大阪などに9店舗を運営している。

 INK物語の特徴は、同社商品開発室・執行役室長の竹内直行氏が、愛着のある神戸の自然や街並みなどから着想した色を作り上げ、色の名前に地域や名産の名称を盛り込んでいる点にある。竹内氏は、色のアイデアを練るため、現場に何度も足を運んで写真を撮り、現地の人に話を聞くなどの取材を重ねる。その回数は10回に達することもある。苦しい時期もあったが、地元にコアなファンを育むことができたおかげで、さまざまな支援を受け、飛躍のきっかけをつかんだのだ。

 丹念な取材により、地域の歴史や文化を色濃く反映させたインクは評判になり、国内だけでなく、海外からも注文が入るようになった。INK物語発売当初、同社の店舗では、万年筆用インクは1日に1本売れる程度だった。現在は、INK物語の効果で万年筆やガラスペン、カリグラフィーペンなども売れ始めた。実際、自社店舗での万年筆の売り上げは、ここ数年、対前年で平均10%拡大している。

 インクの購入者の中心は若い女性だ。「私が店で万年筆を使っていると、『何それ、かっこいい』と言って、若い人が立ち止まることが増えた。カラフルなインクで手書きした文章やイラストをSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)に投稿することが流行っているようだ」と竹内氏は話す。

 INK物語は、竹内氏の神戸への強い思いから生まれた。きっかけは、1995年に起こった阪神大震災だ。「震災後の10年間は会社の再建に奔走した。会社も神戸の街も再建のめどがついたこともあり、復興した神戸をインクでPRしたいと考えた」(竹内氏)。さっそく社長に提案して了承を得たが、当時はデジタル化が進み、万年筆は近い将来使われなくなるという意見が強かった。「社内でも、インクなんか作ってどうするんだという声もあった」(竹内氏)。

ナガサワ文具センター商品開発室・執行役室長の竹内直行氏。Facebookの他、年に20~30回の講演でもINK物語の情報を発信している
ナガサワ文具センター商品開発室・執行役室長の竹内直行氏。Facebookの他、年に20~30回の講演でもINK物語の情報を発信している
竹内氏が普段持ち歩いているINK物語の手書きの色見本
竹内氏が普段持ち歩いているINK物語の手書きの色見本
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