前回は、「匠の傘」を販売する老舗ネットショップのみや竹が、独自の名入れサービスを開発することで、AB3Cに基づく「選ばれる理由」が成立したことをご紹介した。今回は、みや竹がメーカーと協力し、商品開発で「選ばれる理由」を作り上げた事例をご紹介する。

傘の老舗ネットショップ「みや竹」は、今までにないアイデアの傘を商品化した。この製品がなぜ成功したのかAB3C分析に基づいて分析してみると――。 (写真/Shutterstock)
傘の老舗ネットショップ「みや竹」は、今までにないアイデアの傘を商品化した。この製品がなぜ成功したのかAB3C分析に基づいて分析してみると――。 (写真/Shutterstock)

 日本洋傘振興協議会によれば、1年間で売れるビニール傘の本数は1億本以上なのだそうだ。持っていないときに雨に降られても、500円程度の値段で買えるのだから、これほど売れるのは当然だろう。結果として最近は、雨が降りそうな日に傘を持たずに出かけてしまう人が多くなったように思う。

 傘を持って出かけたくないのは、差さないときに邪魔だからだ。男性なら片手にビジネスバッグを持てば両手がふさがる。「扉を開けるとき」「電車に乗るために改札を通るとき」「エレベーターのボタンを押すとき」「買い物をするとき」――。傘は常に邪魔な存在だ。

 邪魔になる理由は、単に片手がふさがるためばかりではない。持ちづらさも問題だ。かばんは通常、手で握って手を伸ばした形で持ち歩く。しかし、傘はそうはいかない。長いので、手を伸ばすと地面についてしまう。

 そのため、片手で握って腕を曲げて持つか、腕を曲げて引っ掛けることになる。いずれにしても、腕を曲げて持つのが一般的で、疲れるし、同時に他のものを持っていると疲れてしまう。

 この持ちにくさは、社会問題を引き起こしている。軸を握って横向きに持ったり、ビジネスバッグの上に横に載せて持ったりする人をよく見かける。後ろの人にとっては、とがった先端が自分に向くので危険だし、階段を上るときはなおさらだ。子供にとっては、顔の高さに先端が突き出される形になり危険度はより大きくなる。

傘の持ちにくさが社会問題に
傘の持ちにくさが社会問題に

 マナーの問題だ、という考え方もあるが、見方を変えると、そもそも傘のデザイン(設計)が社会問題を誘発しているのだ。原因は長さにある。

 そもそも、なぜ今のような細長い形状になったのか。現代の洋傘のルーツは英国にあると言われている。もともと英国では、雨傘より先に婦人用の日傘が普及し、派生形として雨傘が生まれた。当初男性は傘を持つことに抵抗感があったため、男性が持つステッキに形を近づけ、ようやく普及したとされる。つまり、傘の長さのルーツはステッキにある。

 当時の英国上流階級の人々は、自分では荷物を持たず、召使に持たせてステッキのみを持って歩いた。両手が空いているのだからステッキは邪魔にならなかった。ステッキ状の雨傘を持ち歩くときも同様だった。

 一方現代の日本では、言うまでもなくビジネスパーソンは自分で荷物を持って通勤している。ステッキ状傘で片手がふさがる長年の不便に誰も不平を唱えず耐えてきたのは、恐らく洋傘は海外から入ってきた文化でその形は常識であり改善するような類いではないと思い込んでいたためだと考えられる。世界各地で洋傘はほぼ同じ規格で作られているし、疑問視されづらかったのではないか。

 では、短ければ問題は解決するのか。折り畳み傘などが既に存在するが、親骨(生地を張ってあるの部分の骨)の長さが55センチ以下の傘を成人男性が持つと、どうしても傘が衣服などに触れてどこかがぬれてしまう。折り畳み傘は取り出しや畳む際の作業が面倒という問題もある。晴雨兼用傘もあるが、このタイプも折り畳み傘と同じく生地面積が小さい。これでは、成人男性にとっては機能が不十分だ。

 面積を変えずに小さくするために、石突(先端部分)を短くするのはどうか。残念ながら、一般的には長傘の軸と石突は一体化しており、石突を極端に短くすることは難しい。極端に短くするには、軸ごと設計し直す必要がある。小さな傘屋にとってはコストがかかりすぎ現実的ではない。