世界最大の家電・IT見本市「CES 2019」で見えたモビリティの最新トレンドを、MaaS(モビリティ・アズ・ア・サービス)文脈で読み解く本特集。第4回は、MaaS実現に向けて重要なカギを握るテクノロジートレンドを取り上げる。キーワードは、「5G」「エッジコンピューティング」「ブロックチェーン」の3つ。専門家が詳細に解説する。

米半導体大手のクアルコムは、展示ブースで5G(第5世代移動通信システム)をアピール

 MaaSを実現するためには、様々なテクノロジーが必要となる。その中で根幹をなすのが、通信、センシング、そしてデータ管理であると言える。これに即して、本稿ではCES 2019で見られた3つの最新技術トレンド、「通信=5G(第5世代移動通信システム)」「センシング=エッジコンピューティング」「データ管理=ブロックチェーン」にフォーカスを当てたい。そして、それらがMaaSを構築していくに当たってどのように影響を及ぼすのか、分析する。

 KeyWord:【5G】 

 5Gとは、第5世代のモバイルネットワーク技術を意味し、現在普及が進んでいる4G(LTE)の次の世代の無線通信技術である。5Gは「①超高速」「②超低遅延」「③多数同時接続」の3つが特徴として挙げられる。

 まず、「超高速」について。現在の4Gで最大788Mbps(NTTドコモ・PREMIUM 4G)と言われているものが、5Gでは一気に最大20Gbpsに達する。これにより、4Kまたは8Kの動画配信ができるようになり、移動しながらでは難しかった高画質コンテンツの視聴が可能になると考えられる。また、2つ目のポイントである「超低遅延」は、通信におけるタイムラグが減少し、リモート接続においてリアルタイムな応答が期待される。これが実現されると、車両のリモート運転なども現実的な応答速度が得られる見込みで、自動運転が難しい場所などで一時的に遠隔操作を行うといった利用シーンが想定される。最後の「多数同時接続」は、1つの基地局で扱える接続端末数が増えるため、多数のセンサーノードなど、いわゆるIoTデバイスからの通信に広く使われるようになる。

 このように、5Gは新たなモビリティの可能性を実現するための重要な技術だ。ただし、実際にモビリティで応用する場合、5Gは4G(LTE)と比べて高い周波数(28GHz帯)を使うため、様々な技術的な課題が存在する。今回のCES 2019では、各社それぞれが5Gソリューションを展示し、その実現に向けた進捗具合をアピールしていた。

 中でも米半導体大手のクアルコムの展示は華々しいものだった。同社はモバイル向けのチップセットで世界をリードしており、中国のスマートフォンメーカーであるOPPO(オッポ)、vivo(ビボ)、小米(シャオミ)の3社が、5Gスマホのプロトタイプの展示を行っていた。また、ブース内には5G基地局も設置され、実際にスマホで通信を体験することもでき、4K解像度の動画がスムーズに再生されていた。また、米Tモバイルは、下の写真のように会場に5G基地局を搭載した大型トレーラーを持ち込み、通信を行っている様子をデモンストレーションしていた。

 今回のCESで、5Gは実際に動作するものが展示され、もうすぐ我々が普段利用できるようになるものだという印象を強く受けた。この技術がベースとなることで、現在では難しい車内エンターテインメントの高品質化、センサーデータの集約など、モビリティ分野でも新たなブレークスルーが誕生するものと考えられる。

 KeyWord:【エッジコンピューティング】 

 CES 2019において、多くの半導体チップメーカーが展示していたのが、エッジコンピューティングの事例である。エッジコンピューティングとは、環境中で取得したセンサーの値を、クラウドやデータセンターに送信して処理するのではなく、端末側で必要な処理を行った結果を送信するなど、利用している環境に物理的に近い場所で処理を行うものである。

 一般的にセンサーから取得されるデータは莫大な量に上り、仮にクラウド上で処理するとなると、膨大な計算リソースと通信容量が必要となる。具体的な例として挙げられるのは、車載カメラ映像の解析だ。例えば、走行中の車載カメラ映像から「速度標識の位置と表記内容」を得たいとする。この場合、車載カメラ映像をクラウドで処理するには常に映像をクラウド側へ送信し続ける必要がある。クルマ1台分の量であったら問題ない場合でも、仮に1000台分の情報を処理しようとすると、クラウドへの通信量並びに画像解析にかかる計算量も莫大なものとなる。

 しかし、ここでの目的は「速度標識の位置と表記内容」の取得であるため、この情報さえ集約できれば目的は達成される。そこで車載カメラ映像をクルマ側で画像解析し、該当する情報が得られた場合のみ、クラウド側へ情報の送信を行うようにする。こうすることで、クラウド側での処理コストは最小限で済むようになる。これがエッジコンピューティングである。他にもクラウドを経由せずにフィードバックを行うなどの例もあるが、ここでは割愛する。

 MaaSを実現するに当たり、都市環境の情報をセンシングすることは極めて重要な要素となる。具体的な例として考えられるのが、交通量の計測、人の流れ並びに滞留情報である。人流解析を行うことで、モビリティのデマンド予測を行え、人の滞留を検知することで、即座に配車や増便を行うなどの対応が可能になると考えられる。

 クアルコムは、「Vision Intelligence Platforms」と呼ぶ開発環境のデモを行っていた。ブースに設置されたカメラ映像をクアルコムのSoC(System on a Chip: 複数の機能を1つの集積回路にまとめてパッケージ化したもの)を搭載したエッジノードで処理することで、人数のカウントを行うもの。実際会場で動作していたものを見る限り、ほぼ間違いのない人数カウントを実現していた。また、同社は得られた情報のインテグレーション例として、野外フェスにおけるリアルタイムの混み具合の表示を行うダッシュボードのデモも行っていた。

クアルコムが披露していた人流カウントのシステム
同じくクアルコムのブース。野外フェスの混雑マップへの応用例

 米インテルが約1兆7000億円で買収したイスラエルの半導体メーカー、モービルアイの展示も興味深かった。同社は、自動運転に利用するために搭載された車載カメラ画像をエッジ(車両)内で認識し、その結果をクラウドに集約することで、ダイナミックな地図情報の生成を行うシステム「Road Experience Management(REM)」を展示。自動運転に必要となる各種の標識情報や横断歩道、傷んだ道の凹凸などを認識した結果が、Web-GIS上に展開されていく様子が説明されていた。ちなみにGISとは、Geographic Information Systemの頭文字を取った用語で、地理空間情報システムを専用のアプリケーションではなく、一般的なWebブラウザーから操作可能なシステムのことだ。

 このデモで最も感心したのが、ロードサイドにいる人のカウント結果である。この情報が得られることにより、広範囲にわたってバス停やタクシー乗り場などのリアルタイムな待ち人数を把握することが可能になる。これは、デマンドタクシーやシェアリングバスなどの運行計画に反映できるだろう。こういった次世代車両から得られる情報からダイナミックマップが常に更新されるような環境が整えば、かなり早い段階で各所に最適化された、理想的な輸送が実現可能になるはずだ。

モービルアイの展示
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