世界最大の家電・IT見本市「CES 2019」で見えたモビリティの最新トレンドを、MaaS(モビリティ・アズ・ア・サービス)文脈で読み解く本特集。第3回は、出展各社が狙う様々なレイヤーのプラットフォーム戦略について取り上げる。SNS機能と融合した新時代のMaaSアプリもリポートする。

地図サービス大手のHERE Technologies(ヒア テクノロジーズ)がソーシャルライドを切り口とした斬新なMaaSアプリを発表した

 既にご存じの通り、モビリティ分野には「100年に1度の変革」、MaaSに通じるサービス化、デジタル化の荒波が押し寄せている。このトレンドを象徴するキーワードの1つが、「プラットフォーム」であり、モビリティ分野でも今、覇権争いが繰り広げられている。

 一般的にアナログであった業界でデジタル化が進むと、その技術は共通化され、相互に連携が進む。共通化、相互連携による便利でコストの安い仕組みに、利用者と参加する事業者の双方がメリットを感じると、それが加速され、米アマゾンのように他の追随を許さないプラットフォームとして機能する。このプラットフォームを握れば、手数料やライセンス料をある程度コントロール可能で、ユーザー獲得もしやすくなるなど、その業界で良いポジションを取ることができる。逆に、他社にプラットフォームを取られると、ビジネスで優位に立ちにくい。

 こうしたデジタル分野の“常識”が、モビリティ分野でも色濃くなったことを実感したのが、今回のCES 2019だ。出展各社の担当者のコメントからは、様々なレイヤーでプラットフォームの勝者を目指す姿勢が目立った。自動車メーカーでも、良いクルマを自社開発していればよかった時代は終わり、他分野の動向を注視しながら、関連するデジタル技術やプラットフォーム化の動向までをウオッチしなければならない。そういう時代が到来しているのだ。

 さて、ここでCES 2019の展示の傾向から、モビリティ分野のプラットフォームを以下のように分類した。このうち、本稿では自動運転やMaaS分野のプラットフォームをめぐる注目の動きを紹介したい。

【自動運転分野】
●自動運転・制御技術のプラットフォーム
 例)センサー技術、映像処理技術、地図技術、運転制御技術など

【MaaS分野】
●モビリティサービスとしてのプラットフォーム
 例)Amazon AlexaやGoogleアシスタントなどの音声UI、配車サービス、物流、販売との連携など

【ハードウエア分野】
●クルマ、乗り物としてのプラットフォーム
 例)シャトル型モビリティ、パーソナルモビリティなど
●稼働部分(下部)としてのプラットフォーム
 例)シャーシ、電動化技術など
●車内(上部)としてのプラットフォーム
 例)車内空間、車内設備、車載器など

注)実際には、MaaSおよびCASEでは上記と異なる分野にもプラットフォームの分類(軸)は存在するが、ここではCES 2019での発表事例を基に構成した

 まず、自動運転技術およびそのプラットフォームに関わる大きな動きがあった。トヨタ自動車のAI(人工知能)研究所「トヨタ・リサーチ・インスティテュート(TRI)」は、自動運転技術を利用して車両の衝突を回避する「Toyota Guardian(高度安全運転支援システム、以下ガーディアン)」を、競合他社にも提供する意向を示した。プレスカンファレンスでは、初めにオンボードカメラ、センサー、3Dアニメーションなどを活用して、3台が関係する米カリフォルニア州の高速道路での事故を再現。そして、「この事故は、ガーディアンによって被害の低減、あるいは避けることができたであろう」と、TRIのギル・プラットCEOが述べた。

 TRIは、実際の事故データから非常に正確なシミュレーションを作り出し、1秒に満たない時間内でガーディアンが認識・予測・衝突回避の選択肢を引き出すための学習ツールにしたという。そして、このような仕組みを「トヨタだけでなく、路上のすべてのクルマがこうあってほしい」(ギル・プラット氏)と話し、「Guardian for all」と称して業界に提供していく意向を示したのだ。

 自社のソリューションを他社に展開することは、様々な経営判断があってのことだろう。だが、特にICT(情報通信技術)分野においては、より広く自社技術の利用を促すことでソリューションの質を向上させ、プラットフォームのポジションを築くケースが多い。TRIの発表のようなオープンかつ業界・社会貢献を重視する姿勢は、優れたAIのエンジニアやスタートアップなどからの支持を得やすく、自動運転分野での1つのエコシステムが構築されていく可能性がある。

TRIがCES 2019で披露した新型の自動運転実験車「TRI-P4」。第5世代のLexus LSをベースとした車両で、自動運転システムであるガーディアン(高度安全運転支援システム)とショーファー(自動運転システム)の開発を加速させる
会場では、カリフォルニア州の高速道路で実際に発生した事故をビデオと3Dアニメーションで再現した

 車載部品のイメージがある独ボッシュは、「コンビニエンス チャージング」と呼ぶ、電気自動車(EV)の充電とナビゲーションの包括的なソリューション提案を行った。このサービスは、電動パワートレーンからの情報と車両データ、環境データを得ることで、高い精度でEVの航続距離を予測。ルートプラン技術によってドライバーの好みに応じた充電場所を提案するもの。将来的には、EVが“電欠”するタイミングを正確に知らせ、適切に充電スポットを示せるようになるという。また、事前予約した充電スポットまで直接フードデリバリーしてもらうなどのアイデアが盛り込まれていた。

 EV時代には、車両側の機能だけではなく、ユーザー視点でサービスを構築する必要がある。特にEVは、既存のガソリン車よりも航続距離が短く、エネルギーの補充にも時間がかかるため、充電スポットを「探す」こと、充電するタイミングを「計画する」ことが求められる。それに対して、車内のセンサーおよび車外の充電スポット情報を組み合わせて、ユーザーの不便や不安を解消するというのがボッシュのアプローチである。ハードウエアとサービスのソリューションを融合させて、新しい価値・体験を生み出している好例といえる。個人所有にせよ法人所有にせよ、ドライバーにとって便利なソリューションにはユーザーが集まる。そのため、今後もこのような利便性向上の切り口から、プラットフォームの一部分を獲得する動きが加速するだろう。

ボッシュが披露した「コンビニエンス チャージング」の展示
第2回
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