平成という時代が幕を閉じる。プロダクト、グラフィック、デジタルなどさまざまな分野のデザイナー10人の目を通し、この30年間をデザインの視点で振り返る特集。第8回はアートディレクターの森本千絵氏。今後は“つながれない”“消えてしまう”ことが価値になるかもしれないとみる。

「異業種との“つながり”が平成で生まれた。今後は“つながれない”ことが価値になる可能性がある」(写真/名児耶洋)
森本千絵(もりもと・ちえ)氏
アートディレクター
1976年青森県三沢市で生まれ、東京で育つ。武蔵野美術大学 視覚伝達デザイン学科を経て博報堂入社。2007年、もっとイノチに近いデザインもしていきたいと考え「出逢いを発明する。夢をカタチにし、人をつなげていく。」をモットーに株式会社goen°を設立。現在、1児の母としてますます精力的に活動の幅を広げている

──平成を象徴するデザインやサービスについて、森本さんのご意見を聞かせてください。

森本千絵氏(以下、森本) 私が考える平成を象徴するキーワードは「センス」です。日本人のセンスは、カフェ文化と米アップルのMacやiPhoneなどによって磨かれたと思っています。私が初めて体験したカフェは、東京・駒沢にある「バワリーキッチン」です。バワリーキッチンは1997年に開店し、カフェブームの火付け役としても知られています。早朝から深夜まで開いていて、食事やお茶はもちろん、お酒を飲むこともできる。スタッフもおしゃれで、接客もスマート。インテリアやお店のロゴマークなどのデザインも洗練されていて、カフェで過ごすこと自体がスタイリッシュに感じられるのが特徴です。カフェがブームとなり、「カフェめし」という言葉も生まれましたよね。メニューや盛り付けなども、当時のファミリーレストランや喫茶店とは違いました。そういったカフェが次々とオープンし、日本人のセンスは自然と磨かれていったのだと思います。

 カフェ文化が根付いたことで、ライフスタイルも変わりました。まず、たくさんの人がいる中で1人で過ごすことに、抵抗も違和感もなくなった。例えば、深夜、女性が気軽に1人でお酒を飲んだり、食事をしたりできる場所は、昭和の頃にはあまりなかったのではないでしょうか。そんな私たちのライフスタイルは、iPhoneの登場により、さらに変化していきました。

──iPhoneが日本で初めて発売されたのは、2008年7月です。

森本 iPhoneの登場と同時に、SNSも普及していきます。1人で過ごすことに慣れた私たちは、表現したいことや思っていることも個人で発信するようになったのです。手のひらの上で情報は次々と拡散され、コミュニケーションの在り方は大きく変化しました。その背景にあるのが、マスメディアの崩壊です。広告の作り方も大きく変わりました。

 そうした時代の変化を予兆していたかのようなアップルの広告があります。それが、97年に展開された伝説的なテレビCM「シンク・ディファレント(Think Different)」です。初めてこの映像を見たとき、これから時代が変わっていくんだと確信し、心が震えました。広告業界を目指そうと決めたのも、シンク・ディファレントの影響です。

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