満員電車に揺られ、片手につり革、片手にスマホ。忙しい日々の中の隙間をぬって、人々はコンテンツを消費する。スマホ画面を奪い合うコンテンツ事業者間の競争が加速する中、マーケターはいかに人々の変化を捉え、情報を届けるべきか。デジタルマーケティングの専門家、菅原健一氏が解説する。

コンテンツを隙間時間で楽しむ人々に、いかに情報を届けるかが、現代のマーケターが取り組む大きなテーマだ。(c)cowardlion / Shutterstock.com

 変化の激しい時代といわれますが、最も変化しているのは実は人間です。テクノロジーの進化が行動だけでなく、思考の変化まで生み出しています。ネット広告に関わるマーケターが本当に注視すべき人間、すなわち「ユーザー」の本質とは何でしょうか。下の図を見てください。テクノロジーとユーザーとマーケティングという円があります。

「テクノロジー」を土壌として登場した「メディア」を通してユーザーが変化する。その変化を捉えたうえでマーケティングの手法を講じる必要がある

 テクノロジーとは、最近の例ではAI(人工知能)やVR(仮想現実)などです。日本では2008年に発売となった当時のiPhoneも新たなテクノロジーに基づいた製品だったと言えるでしょう。技術が進化することでユーザーに影響を与えていくことになります。その間を仲介するのがメディアやサービスです。

 例えば「Instagram」などは、スマホがなければ登場していなかったでしょう。このInstagramがユーザーに変化をもたらします。多くの画像をスクロールし、お気に入りの人の投稿や好みのハッシュタグを探り当て、自分でインタラクティブに探す。雑誌やテレビではなく、こうすることがファッション情報を得る良い方法なのだとユーザーの認識を“アップデート”していきます。

 マーケターは、このように変化し続ける人たちを追わなければならないのです。おのずと広告を出す場所は、雑誌からInstagramに変わります。見せ方も変化します。抽象的なビジュアルを大きく載せる雑誌広告的なものではなく、例えば、有名インスタグラマーが配信する写真の中にどう入り込むかと考えます。

 マーケティングというのは「変化したユーザーを捉える後追いの行為」なのです。優れたマーケターは「よく観察する」と言われます。自社の商品を買ってくれそうな人を探しているだけでは、チャネルの変化や購買方法の変化までは気づけません。視野を広げ、ユーザーの日々起きている変化を観察しているのです。

 メディアやサービスを観察するだけではなく、時に協業することで、ユーザーを変化させる側に加わることもあります。タイアップの在り方も今後は変化していくと思いますが、ユーザーの変化に敏感なメディアと組むのは当然です。

 ユーザーを捉えるには、ターゲットやインサイト(消費を引き起こす要因)という自社や製品とのつながり部分だけを見るのではなく、今起きている大きな変化に着目し、ユーザー像を理解することこそ重要になります。

無料モデル全盛時代の終わり

 メディアやユーザーに起きている変化の具体例として、コンテンツ料金に注目してみましょう。

 かつてはコンテンツにお金を払うことが当たり前でした。雑誌、新聞、そして従来式の携帯電話(いわゆるガラケー)もそうです。僕は10年くらい前までは、ガラケーのコンテンツビジネスを運営していました。ニュースやファッションの情報、待ち受け画像や着メロ・着うたのコンテンツを得るために人々は毎月お金を払っていました。ビジネスはとても好調でした。天気予報に月額100円を払うユーザーが何百万人もいたのです。

 その後、iPhoneが登場し、日本でもスマホが一気に普及しました。ガラケーで毎月料金を払っていた天気やニュース、ファッション情報はアプリやスマホ用サイトで無料で提供するようになっていきました。これらのアプリやサイトは広告モデルで運営され、モバイル向けのネット広告市場が大きく花開くことにつながりました。

 しかし、今も無料モデルが全盛の状況が続いていると言えるでしょうか?

 「YouTube」を開けば音楽クリップを無料で視聴できますが、毎月料金を支払って「Spotify」で音楽を聴く人は数多くいます。無料の料理動画はいくらでもネット上に存在していますが、「クックパッド」で有料会員になりレシピを見る人もいます。ニュースでも「どれが企業のステマか、フェイクニュースか分からない」と、わざわざ有料コンテンツを買う人も増えつつあります。

 有料のものが何でも無料になり、それが当たり前になっていた数年前では想像がつかなかったことですが、不可逆と思われた変化も、揺り戻しが来る可能性もあるのです。YouTubeやSpotifyの有料プラン、「Netflix」のように広告が表示されないことを売り物とするサービスも登場しています。こうした広告に頼らないメディアが席巻すれば、ネット広告業界にとっては新たな方向性を探る必要があるかもしれません。

第4回
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