AI時代が到来しても人の仕事が楽になるわけではない。誰にでもできる単純作業はAIが担当し、人間はもっと高度かつ複雑な業務での成果を求められるからだ。デジタル広告を運用するうえでは何を心がけ、目指していくべきなのか。デジタルマーケティングの専門家、菅原健一氏が解説する。

広告の運用者には、能動的に手段を選択し、その結果に責任を持つ攻めの姿勢が求められる (c)Shutterstock
広告の運用者には、能動的に手段を選択し、その結果に責任を持つ攻めの姿勢が求められる (c)Shutterstock

 アドテクノロジーは、リーマン・ショックによる不景気で職を失った金融工学者が広告業界に多数入ってくることで発展しました。その結果、ある広告枠にどの企業が広告を出稿するかを瞬時に決める現在のリアルタイム取引が広がりました。

 その後の金融業界では、技術の進歩に合わせてトレーダーの削減が進みました。米金融大手ゴールドマン・サックスは、トレーダーをピーク時の600人から、数人にまで削減したといわれています。この話をつなげて考えると、インターネット広告を運用するオペレーター(以下、運用者)も不要になっていくような気がしてきます。

 ネット広告の運用者はAIに駆逐されるのでしょうか? 答えはNOです。

 僕自身、過去役員をしていた企業で年間数十億円の広告を運用していました。その経験から見えてきた広告運用の本質は2つです。まず1つ目が「クライアントと共に広告運用の目的を設計すること」。次に「現在の技術で計測可能な指標に置き換える能力」です。改善のためのアクションを日々生み出しながら柔軟に対応していく必要があるのです。これは人間でなければできることではありません。

AIが担うのは「守り」の単純作業

 広告の運用は単純な仕事ではありません。ちょっと乱暴な言い方かもしれませんが、株式市場では銘柄の「上がりそう」「下がりそう」に対応できればいいわけです。それに比べると、ネット広告では、多様な変数を扱う必要があります。広告配信先をどこにするか、どんなデータソースを活用するか、クリエーティブのデザインや訴求軸はどうするか、ターゲットそしてクライアントごとの運用指標をどう決めるかなど、あらゆるものが運用者の手に委ねられます。

 運用指標だけでも多岐にわたり、認知を取りにいくのか、商品の興味スコアを上げるのか、購買数を増やすのかなど、企業によってゴールすら違うのです。単にデータの動きを読むだけではありません。能動的に手段を選択し、その結果までの責任を持ちます。だからこそ広告運用者の仕事は難易度が高いのです。

 広告運用の仕事は、「守り」の要素と「攻め」の要素で分けることができます。「守り」とは入稿、リポート、請求関連など。「攻め」とは分析、設計、最適化などを指し、パフォーマンスに影響する業務のことです。

広告運用の業務には「守り」と「攻め」の2種類がある
広告運用の業務には「守り」と「攻め」の2種類がある

 コンピューターが代替できるのは主に「守り」の部分です。

 これらは誰がやっても同じ結果しか生み出しませんが、むしろできるだけコンピューターが代替し、ミスを防ぐようにできたほうがよいわけです。大型のキャンペーンを行うときには、数千本のクリエーティブ(広告のために作られた制作物)とそれにひも付くリンク先を別々に用意することがあります。人間がミスをしないように処理するには、ほぼ不可能なレベルに到達してしまっているのです。

 広告運用の本質は「攻め」の部分です。

 広告主のお金を預かり、それを運用し、広告結果に差を出していく。例えば、どのメディアに広告を出すか、訴求軸をどう変更するか、どんな順番で仮説を検証するかといった手段を自ら考え、実践していくのです。米グーグルや米フェイスブックは、各プラットフォームの運用を簡単にするために、AIを含む自動化の仕組みを提供し、パフォーマンスを改善していますが、それはあくまでも各プラットフォーム内のパフォーマンスを改善するための技術です。広告全体を設計し、動かしていくのは、やはり広告主や代理店に所属する「人」なのです。

 意思決定の範囲が狭く、自動運用に任せているだけの運用者や運用会社は、AIに駆逐されるでしょう。AI以前に、競合の代理店に駆逐されるかもしれません。

第3回
「社内のデータは宝」のわな データではなく目的から考える
第5回
広がる「隙間時間で楽しむ」志向 そこに広告の居場所は残るのか