インターネット広告の市場が拡大する一方で、不正の勢いが止まらない。健全化の道を探るには、業界内で働く一人ひとりの意識改革が必要となる。アドテクノロジーやデジタルマーケティングの専門家である菅原健一氏が、ネット広告に関わる人々すべてが立ち戻るべき商売の鉄則を説明する。

社会に貢献できてこそ、よい商売ができるという「近江商人」の思想がネット広告にも必要となる。ESB Professional/Shutterstock.com

 前回の記事は「インターネット広告は壊滅寸前?」という、タイトルの強さもあり大きな反響をいただきました。記事の掲載後にはNHKの報道番組「クローズアップ現代+」でも「追跡!“フェイク”ネット広告の闇」という番組があり、新聞社のサイトすらも不正なネット広告に侵されている実態が明かされました。この連載を始めるきっかけとなったネット広告の懸念は、まさに現在進行形で広がっています。読者の皆さんも、その実態をリアルに肌で感じているからこその反響だったと確信しています。

近江商人の教えに逆行

 今回はデジタルマーケターが持つべき「倫理観」についてお話します。

 僕の好きな言葉に「三方よし」という言葉があります。もともとは商売が上手な近江商人の言葉ですが、現代のマーケターにとっても必須となる大切な考え方を含んでいます。若い読者には、なじみがないかもしれませんので、この言葉の意味をご紹介しましょう。

 三方とは、売り手、買い手、そして社会全体のことを示しています。「商売において売り手と買い手が満足するのは当然のこと、社会に貢献できてこそよい商売といえる」という意味です。商売をする上では、社会への貢献が重要であり、短期的成長のみを考える人や企業が多くいると、その市場は長くは続かないのです。

 漁業に例えると、今の取れ高が欲しいからといって魚を乱獲すれば、卵を産む魚や大きくなる前の稚魚まで取ってしまいます。結果として、未来に育つはずの大きな魚を失い、将来の漁獲高を減らしてしまうのです。大量に取るために多くの船を出し、海を汚せば魚自体も汚染され、そのエリア全体の魚を買う人がいなくなるかもしれません。

 ネット広告の世界でも同じです。もうかるからといって不正な手段が横行すれば、市場は健全に育たず、消費者に冷ややかな目で見られるようになるのは当然のことです。競争に勝ち、生き残るという闘争心はある程度必要ですが、同じ市場で働く別の企業は、ライバル関係でありつつ、市場を成長させる大切な関係者でもあります。全員がつながることで、市場が成立していることを忘れてはいけません。

 この他にも、現在にこそ重要な視点を近江商人は教えてくれています。「商売は世の為、人の為の奉仕にして、利益はその当然の報酬なり」「売る前のお世辞より売った後の奉仕、これこそ永遠の客をつくる」「資金の少なきを憂うなかれ、信用の足らざるを憂うべし」など、多くは社会とのかかわりの重要性を説いたものです。

技術の発展でモラル崩壊

 近江商人の話は世界でも通用します。なぜ日本とフランスに長く続く企業が多いのか、ご存じですか? 諸説ありますが、一説には世襲が影響しているようです。数年でパフォーマンスを出さなければ次がない米国グローバル型の経営者と、世襲で数十年後には自分の子供に継がせる企業では、意思決定の考え方に差がでます。世襲の問題点はありますが、メリットに目を向けると、自分のことよりも、自分の子供が継ぐ時を見据えて意思決定することで、自然と三方よしになるのではないでしょうか。

 このように日本には長期的な市場を育て、関係者全員が恩恵を受けるような土壌があるはずです。にもかかわらず、なぜ、長期的ビジネスを考えられる日本の中で、ネット広告は問題を多くの抱えてしまったのでしょうか? 前回お伝えしたように、テレビ広告に比べ、ネット広告は容易に参入できるため、悪意のあるメンバーが増えてしまったのです。

第1回
インターネット広告は壊滅寸前? 好調さの裏で広がる不正の温床
第3回
「社内のデータは宝」のわな データではなく目的から考える