次世代移動サービスの「MaaS(モビリティ・アズ・ア・サービス)」の展開、サブスクリプション(定額課金制)のサービス、AI(人工知能)の活用、販売店の改革──。2019年、そのすべてに取り組み、会社の形を変えようとする企業がある。トヨタ自動車だ。「変革の現場」をテーマに、今、ノンフィクション連載『トヨタ物語2020』の幕が開く。

「トヨタはクルマをつくる会社から、モビリティに関わるあらゆるサービスを提供する会社、すなわちモビリティカンパニーに変革する」と宣言した豊田章男社長(写真:ロイター/アフロ)
「トヨタはクルマをつくる会社から、モビリティに関わるあらゆるサービスを提供する会社、すなわちモビリティカンパニーに変革する」と宣言した豊田章男社長(写真:ロイター/アフロ)

<『トヨタ物語2020』連載開始にあたって(編集部)>

 今からちょうど1年前のことだった。

 「トヨタはクルマをつくる会社から、モビリティに関わるあらゆるサービスを提供する会社、すなわちモビリティカンパニーに変革する」

 豊田章男社長は米ラスベガスで開かれた国際技術展示会「CES 2018」でこう宣言した。そこでは自動運転の電気自動車によって移動、物流、物販など多様なサービスを提供する「e-Palette」構想と試作車両が披露された。初期パートナーとして米アマゾン、米ピザハット、中国・滴滴出行(ディディチューシン)、米ウーバー・テクノロジーズ、マツダと提携、MaaSへの具体的な取り組みの一端を世界に示した。

 18年6月には新型のクラウンとカローラ・スポーツに、車両の制御ネットワークと接続する車載通信機を標準搭載。つながるクルマ、つまり「コネクティッドカー」として、車両の遠隔自動点検やオペレーターサービスなどの提供を始めた。

 また10月、ソフトバンクと共同で、新会社「MONET Technologies(モネ テクノロジーズ)」の設立を発表。両社のプラットフォームを連携させて協業する目的は、MaaS事業の一層の推進に他ならない。

 そして間もなく始まるのがサブスクリプションサービスの「KINTO(キント)」である。この月額定額の乗り換えサービスを豊田社長はこう説明した。

 「クルマが欲しくなったら簡単にクルマライフをスタートし、違うクルマに乗りたくなったら乗り換え、不要になったら返却する。必要な時にすぐに現れ、思いのままに移動できる、まさに『筋斗雲』のように使っていただきたい」

 さらに4月には、東京の直営販売店4社が融合する新会社「トヨタモビリティ東京」でチャネル別販売が廃止される。これは2022年から25年にかけて全販売店において全車種の併売化を実施する布石だ。同社ではカーシェアリング事業も開始する。

 Connected(コネクティッド)、Autonomous(自動化)、Shared(シェアリング)、Electric(電動化)──。「CASE」と呼ばれる新たな領域での急速な革新が進む中で、クルマの概念は大きく変わろうとしている。豊田社長はこう語った。

 「自動車業界は100年に一度の大変革の時代に入った。次の100年も自動車メーカーがモビリティ社会の主役を張れる保障はどこにもない。『勝つか負けるか』ではなく、まさに『生きるか死ぬか』という瀬戸際の戦いが始まっている」

苦難の「販売の現場改革」、待ったなし

『トヨタ物語―強さとは「自分で考え、動く現場」を育てることだ』
『トヨタ物語―強さとは「自分で考え、動く現場」を育てることだ』

 この連載の著者、野地秩嘉(のじつねよし)氏は18年1月に『トヨタ物語』を著した。同書で注目したのは「トヨタ生産方式」。それまでの7年間、数多のインタビューとおよそ70回の工場取材を重ね、トヨタがその独自の生産方式を通して「自分で考え、動く現場」をいかに育ててきたか、いかに顧客のニーズに応え続けてきたかにスポットを当てた。そしてトヨタの強さの源泉に迫った。同書はトヨタの創業から現在に至るその歴史を丹念に追った。が、そこでは描き切れなかった題材がある。

 「販売の現場改革」だ。

 トヨタ生産方式はその名称から、生産現場のためのものと思われている。しかし、それは前述の通り、「自分で考え、動く現場」を育て、顧客の多様なニーズに応えるための強力なツールであり、業種や職種を越えて現場のカイゼンに活用し得るものだ。

 トヨタでも販売現場への移植が試みられ、その取り組みは20年以上にわたった。しかしその成果は道半ば。トヨタにとっては苦難の歴史であり、今なお大きな課題である。

 しかし、状況は待ったなしだ。今起きている大変革の現場とは、そのニーズが大きく変化している顧客との接点である。「販売の現場」に他ならない。トヨタが矢継ぎ早に繰り出す変革への取り組みが成功するか否か。ひいてはさまざまなビジネスやサービスの仕組みが、社会のあり方がどのように変わっていくのか。

 それらを知るには、現在を「点」で見ているだけでは難しい。著者は販売の最前線、顧客との接点の現場取材を重ねる。同時に、それと密接に連携する生産現場や物流の変化に目を配る。そして、これまでの現場改革の歴史を掘り起こしていく。

 では『トヨタ物語2020』の旅へ。現在始まりつつある変革を、過去の動きのプロットを重ねることで野地氏に読み解いていただこう。

 第2回ではトヨタの「変革の現場」に足を踏み入れる。スタートの地は米テキサスだ。「アマゾンがクルマを売る時代」を見据えるトヨタ車販売店社長に、生き残り策を聞く(1月17日公開予定。毎週木曜掲載)。