日経クロストレンドのアドバイザリーボードの面々が、「ポスト平成」の注目キーワードを占う本特集。サントリー、資生堂、良品計画のトップデザイナーと、ユニリーバ・ジャパンのデジタルマーケティング担当者が見据える、19年のビジネステーマとは?

写真/ShutterStock

 注目キーワード 
「ストーリーからナラティブへ」

サントリーコミュニケーションズ デザイン部長
水口 洋二氏

 私の2019年の注目キーワードは、「ストーリーからナラティブへ」。こういった外来語バズワードに辟易(へきえき)している諸氏も多いかとは思いますが、しばしお付き合いください。

 競争の激しい市場では、常に差別化とその模倣が繰り返されます。その結果として製品間の機能差がほとんどなくなり、価格のみが消費者の判断基準となってしまいます。いわゆるコモディティー化です。最近ではこの不毛な闘いへの反省から模倣されにくい差別化として「ストーリー」が注目されています。自社ブランドの素晴らしさを感動的なストーリーとして創り、それを消費者に発信してファンになってもらうという手法です。競合からすると機能差と違って明確なものが見えないので模倣できないのです。一見すると素晴らしい手法です。しかしストーリーは本当にコモディティー化脱却の処方箋なのでしょうか?

 一般的にストーリーは、情報を持つ者から情報を持たない者への一方通行です。しかしSNSが発達した現代においては、情報の質はともかく量という意味では逆転しています。圧倒的に消費者側に情報があります。この状況ではメーカーが従来通りのストーリーを創り発信しても、消費者からは都合の良い自慢話と思われ、信用も感動もされません。

 そこで「ナラティブ(narrative)」の登場です。ナラティブは消費者自身が抱えている課題をメーカーと共に対話をしながら解決していく方法です。ナラティブはメーカーだけで創るストーリーとは違い、消費者も関わるものです。また、消費者からの意見を聞くだけのヒアリングとも違い、双方向の対話です。メーカーだけでなく消費者自身も課題解決に参加することで、納得性の高いものが創り出されます。「ストーリーからナラティブへ」の流れは、消費者とメーカーとの新しい関係のあり方です。

 これは、ものづくりにも大きな影響を与えます。製品やブランドのストーリーは基本的には1つであり、変化はしません。これは、同じものを大量に作るマスプロダクションには向いています。しかし、ナラティブは消費者との対話から創り出されるものであるため、複数あり、変化し続けます。これはマスカスタマイゼーション(生産性を保ちつつ、個々の顧客のニーズに合う商品やサービスを生み出す方法)が向いています。Carbon 社とadidas社の取り組みに代表される、実製造に使える次世代3Dプリンターの登場で、従来机上の空論でしかなかったマスカスタマイゼーションが実現されつつあります。

 「ストーリーからナラティブへ」。抽象的なブランド戦略だけでなく具象的なものづくりまでを再定義する可能性があるのではないでしょうか?