需要の高低に応じて価格を変動させるため、合理的な価格設定が可能になり、売り上げを最大化できる――。ダイナミックプライシング(DP)は夢の道具のようにも思えるが、実際はどうなのだろうか。導入するとどういった問題が起こるのか。特集の9回目ではホテル業界の実情からDPの課題を明らかにする。

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 3回目で取り上げたホテル業界の例を見ても分かるように、固定価格からDPに移行してまず起こることは、現場の負担が増えることだ。

 DPを実行するためには過去の自社データ(売れ行きなど)や競合他社の動向、天気、カレンダー情報、イベント情報など、需要に影響を与えるあらゆる情報を収集・分析して需要を予測し、それに応じた価格設定をしなければならない。その負担の大きさ故、過去の自社データや競合の料金だけを参考にして価格を決めているホテル担当者もいるという。

 AI(人工知能)を活用すれば、それらの作業をある程度代替させることは可能だが、すべてを自動化できるわけではない。「空港が突如使えなくなったなど、本当に突発的な出来事にAIは対応できないため、人の手で作業する必要がある」(AIを活用したホテルの価格設定支援サービスを提供するメトロエンジンの田中良介社長)。

DPはポリシーとの融合がカギ

 さらに忘れてはならないのが、AIを活用しても、変動する価格の上限と下限はあらかじめ決めておかなくてはならないこと。ホテルであれば、何種類の料金を用意するか、料金と料金の間の金額をいくらにするかなども人間が設定する。

 しかも、上限と下限の設定は「繁忙期でも顧客から不満が出ないようにするため、上限は平日の平均価格の2割アップに抑えよう」「割安感を出すため、上限を平均価格にし、平均から下がる方向にのみ変動させよう」といったホテルの意図が如実に現れ、かつ売り上げに大きく影響を与える。

 AIを使ったホテルのレベニューマネジメントサービス「マジックプライス」を提供する空の松村大貴CEOは「DPを導入する前に、まず事業者のプライシングに対するポリシーが必要」と話す。DPの知識やノウハウが分かる担当者の必要性が理解できるだろう。

AIを活用して宿泊施設の料金設定をサポートする「マジックプライス」の料金管理画面。AIが料金ランクを提案するが、料金設定自体は事業者が決めなければならない

 ここまでやってDPを実現したとしても、「DPで設定した価格がベストだったかどうかの判定は難しく、売り上げの最大化は確約できない」(メトロエンジンの田中社長)。DPはホテル業界でレベニューマネジメント(売り上げ管理)と言われるように「売り上げの最大化」が重要なミッションとなるが、「目的はあくまで販売機会ロスの削減であり、結果的に売り上げが上がると考えるべきだ」(田中社長)。想定より早く売り切れたから次は値段を高くしよう、売れ残りが多かったから次は値段を下げようといった試行錯誤を繰り返し、売り上げアップを目指していくしかない。ゴールのないトライ&エラーなのだ。

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