繁閑差に合わせて価格を上げ下げするダイナミックプライシング。エアラインやホテルでは既に一般化しているが、この仕組みを新たに導入する企業や業界が増え始めている。米国ではスポーツやコンサート、食品スーパーにも浸透。この波は日本にも及ぶのか。ダイナミックプライシングの成否を探る特集の第1回は、2019年シーズンで全面導入を決めたJ1リーグ横浜F・マリノスの事例を見る。

2019年、Jリーグの横浜F・マリノスがダイナミックプライシングの全面導入を決めた

 2018年10月14日、サッカーJリーグのYBCルヴァンカップ準決勝第2戦で、チケット価格に“異変”が起きた。対戦カードは横浜F・マリノス対鹿島アントラーズ。昨季は最終的にリーグ12位とやや物足りない成績に終わった横浜FMだが、ルヴァンカップは01年以来の優勝を狙えるところまで勝ち進み、サポーターはがぜん盛り上がった。ホームアンドアウェー方式で第1戦にアウェーで先勝した横浜FMが、ホームに鹿島を迎えて決勝進出をかけて戦った試合である。

 下図はこの試合のチケット価格がどのように変動したか、席種別に推移を示したものだ。

ニッパツ三ツ沢競技場での人気カードはチケット価格が高騰

 まず年間会員向けに標準価格より200~500円安い早割価格で販売を開始し、一般販売初日の9月24日は標準価格でスタートした。売れ行き好調のため、翌25日にはメインスタンド正面の“特等席”であるSSS席が5900円から7000円に、サポーターが集うゴール裏の自由席(サポーターズシート)は2500円から4100円に上昇した(価格はすべて税込み。以下同)。

 それでもなお早々に完売する勢いだったため、3日後の28日にはSSS席が8400円、サポーターズシートは7500円にまで跳ね上がった。4日前の2500円から実に3倍の高騰である。SSS席の値上げによって相対的に割安感が出て購入者が増えたSA席は、標準価格の2倍の8400円に設定され、SSS席と同額、格上のSS席より高くなる逆転現象も起きた。

 オークションでもないのにこのようなチケット価格の高騰が起きたのは、横浜FMがチケット販売に「ダイナミックプライシング(DP)」を導入したためだ。ダイナミックプライシングとは、チケットの売れ行き予測と販売状況に応じて価格を変動させることで、収益アップと観客動員増を目指す仕組みである。

 一部のJリーグクラブチームでは、人気チーム、近隣チームとの対戦で集客が見込める試合とそれ以外で価格体系を変えている。プロ野球でも集客が見込める巨人戦、阪神戦限定の価格を他球団が設定している例がある。

 DPはそれをさらに進化させたものだ。過去の販売実績データなどをAI(人工知能)が学習することで売れ行きを予測し、販売状況に応じて収益最大化が見込める最適価格をシステムがレコメンドする。その推奨価格を参考に、文字通りダイナミックに販売期間中に価格を変動させるのがDPである。

 エアラインやホテルなど一部業界ではDPが既に一般化し、繁閑差やイベントの有無、予約状況に応じて価格が大きく変動する。その波が今、Jリーグやプロ野球、コンサートのチケット価格をはじめ、駐車場やタクシーの迎車料金に至るまで、さまざまな業界に広がろうとしている。ユニバーサル・スタジオ・ジャパンも19年1月から、繁閑差で入場料を変える新料金制を開始した。AIを活用して精緻かつ大胆に価格を変動させるものから、繁閑別の価格体系導入にとどまるものまでレベルは多様だが、ここにきて価格が一律なものから大きく変わろうとしていることは確かだ。

第2回
チケット価格が相次いで変動制に 三井物産、ヤフー、ぴあの野望