エアラインやホテルにとどまらず、スポーツの試合やコンサートにまで広がりを見せるダイナミックプライシング。その背景にあるのがAI(人工知能)の活用だ。AIはダイナミックプライシングの何を変えるのか。特集の3回目では、AIの導入が進むホテル業界の現状を探っていく。

AIを活用したホテルの価格設定支援サービスを提供するメトロエンジン(東京・港)は、JR東日本スタートアップ(東京・渋谷)と共同で新幹線の混雑予測を実施。その成果が2018年12月、JR大宮駅で一般公開された

 需要に応じて価格を変動させるダイナミックプライシング(DP)は、ホテル業界ではレベニューマネジメント(売り上げの最大化を測る販売管理手法)と呼ばれている。通常、レベニューマネジメント担当者はまず過去の実績やカレンダー情報、天気、イベントの予定などのデータを「収集・分析」し、それらを基に「需要予測」を実施。そのうえで、あらかじめ設定した複数の料金の中から需要に応じた「価格設定」を行う。その一連のプロセスのなかで、価格設定の手前の料金選奨までを行うのがAIの役割だ。

 しかし、なぜDPにAIが必要なのか。背景には、「データ収集・分析→需要予測→価格設定」と複雑かつ専門的な作業が必要なレベニューマネジメントの難しさがある。さらに、人手不足によってレベニューマネジメント業務を支配人が兼務するなどし、手が回っていないケースも多いという。不動産やアパレルなど、ノウハウを持たない異業種企業のホテル参入が相次いでいることも背景にあるようだ。

携帯基地局データまで活用して需要を予測

 そんななか、人間の作業の代替にとどまらず、膨大かつ希少なデータをAIに収集・分析させることで、需要予測の精度を飛躍的に高めようという試みも出てきている。

 JR東日本やNECのグループ会社から出資を受け、AIを活用したホテルの価格設定支援サービスを提供するメトロエンジン(東京・港)。同社は天気やカレンダー情報はもちろん、携帯電話事業者が有料で提供する基地局データ(基地局がカバーするエリアの人口を性別や年代、国・地域などで分類し、人の分布の動きが分かるもの)やライブチケット情報など100種類程度のデータをAIに分析させ、ホテルの需要を予測している。ライブ情報にいたっては、アーティストのファンクラブが提供する先行情報のほか、その前にネット上などに出てくるファン同士のやりとりなども参考にしているという。同社の価格設定支援サービスは「東急ホテルズ」「ホテル モントレ」など30のホテルチェーンが採用している。

 データは量だけでなく、質とスピードも重要だ。「イベントといっても大小含めて全国で年間5万件以上もあり、各イベントの中身まで把握する必要がある。これらのデータを駆使してイベントの影響力の大きさをランク付けする」(メトロエンジンの田中良介社長)。例えば、札幌でプロ野球・日本ハムファイターズの試合と嵐のコンサートがある場合、同じ5万人でもホテルへの影響は全く異なる。前者は地元客メインでホテルへの影響が少ない一方、嵐のファンは全国から訪れ、チケットが取れなかったのに会場に来るファンもいる。こういった要因も需要予測に反映させる。ただ、「予測と実際の結果になぜ差異が出るのかをAIは分からない。ここはデータサイエンティストが調べて補正する必要がある」(田中社長)。

メトロエンジンのイベント情報画面。ファンクラブの情報など希少データを含め、いち早くイベント情報を入手する
メトロエンジンの料金設定画面。プラン別に料金を提案