イタリアのミラノ工科大学教授のロベルト・ベルガンティ氏は「意味のイノベーション」と呼ぶ考え方で多くの企業から注目され、欧州委員会のイノベーション政策にも関与している。著書『突破するデザイン』(日経BP)も話題になり、日本企業で講演する機会も多い。今回はベルガンティ氏にイノベーションについて聞いた前編。

ロベルト・ベルガンティ氏(Roberto Verganti)
イタリア ミラノ工科大学教授
専門はリーダーシップ論、イノベーション論。大学でマネジメントとデザインのコースを担当する一方、経営者にデザインとイノベーションのマネジメント教育を行う研究組織のMaDe In Lab を指揮する。マイクロソフトやボーダフォン、アレッシィや任天堂など、100社以上のイノベーションプロセスとその課題を調査している。著書に『デザイン・ドリブン・イノベーション』(クロスメディア・パブリッシング)、『突破するデザイン』(日経BP社)

イノベーションの必要性が高まるにつれて、デザインとビジネスの関係が激変しています。

ベルガンティ氏 ミラノ工科大学では1990年代にデザイン学部を設置しましたが、それまでデザインとビジネスは別世界で、互いに関心を示しませんでした。今では逆で、デザインとビジネスが接近し過ぎているほどです。ビジネス系のコンサルティング会社が次々と著名なデザイン事務所を買収しています。背景にはいくつかの要因がありますが、特に大きいのがデジタル技術の急速な進化です。

どういうことでしょうか?

以前は、まずニーズがあってそれに技術が応えました。今はこれが逆転し、技術の進化に人間が追いつけなくなっています。だからこそデザイナーには、人間が技術をより快適に使えるように、いわば「技術をそしゃくする」といった役割が以前より強く求められています。

 その結果、大手のIT企業やコンサルティング企業で働くデザイナーが急増しています。ミラノ工科大学でも卒業生が就職先に困ることはありません。これは、かつてなかったことです。昔は子供がデザイナーになりたいと言ったら、親は頭を抱えました(笑)。今はいくらでも仕事があります。技術と人間のギャップを埋める仕事が、これからも不可欠になるからです。

デザイナーに求められるスキルも変わってきているのでしょうか?

変化していると思います。分野で言えば今、成長しているのはサービスデザインです。このためデザイナーにも、デジタル技術の知識が求められています。これまでもプロダクトデザイナーは技術と無縁だったわけではありません。分野は異なりますが、さまざまな材料の特性を知り、使いこなしたのと同じように、今はAI(人工知能)やAR(拡張現実)、アプリの実装など、さまざまなデジタル技術を知り、使いこなす必要があります。1つの分野に精通するのではなく、たくさんの選択肢を知っておき、それらを組み合わせることで良いユーザーエクスペリエンスをつくり出すことが肝要です。

 一方、サービスデザインにおいて重要なのは、やはり「人」です。どんなサービスでも、ユーザーにサービスを提供するスタッフなどの「人」がエクスペリエンスを大きく左右します。このため「人」を動かすマネジメントを知っていることも、デザイナーの強力なスキルになります。

 こうした新しい役割を果たすために、若いデザイナーはサービスデザイン向けのさまざまなツールを既に活用しています。例えばカスタマージャーニーやサービスブループリントなど、これまでのプロダクトデザイナーなら考えもしなかったツールを使いこなしているはずです。