サブスクリプション事業を成功に導くための基礎を、CustomerPerspective 代表取締役 紣川謙(かせがわ けん)氏から学ぶ本連載。第4回は、事業成長に必要なKGI(Key Goal Indicator=重要目標達成指標)、KPI(Key Performance Indicator=重要業績評価指標)の立て方を考察する。

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 サブスクリプション事業の成功の鍵は、継続的な利用を約束してくれるカスタマーを多く獲得・維持し、その期待を上回ることだというお話を、今までの連載でしてきました。今回はそれが実行できているかどうかを評価するための、KPIの立て方と、KPIを用いて長期的成長を実現する仕組みについて書きます。今回は、広く使われているKGI、KPIの枠組みに沿って説明し、サブスクリプション事業にとって重要なKPIであるLTV(Life Time Value=顧客生涯価値)についても解説します。

 ここではKGIを単純化し、多くのビジネスにとって重要な目標の1つである利益額がKGIであると考えます。例えば○年後の利益を○億円にする、といった目標になります。これを前提に、ビジネスを成長させ、利益を生み出すためのKPIを考えてみましょう。

Input KPIとOutput KPI

 KPIを設定する方法はさまざまですが、その中でも重要なことは、Input KPIとOutput KPIとの区別を意識することだと私は考えています。Input KPIは、目標達成につながる施策がとれているかを直接表す指標で、Output KPIは、さまざまな施策をとった結果を表す指標です。

 サブスクリプション事業を構築する上で考えたい最も重要なOutput KPIの中に、総顧客数と顧客生涯価値があります。顧客生涯価値とは、1人の顧客が「ある特定のサービスの顧客である間(=Life Time)」にもたらす価値(=Value)の合計です。例えば典型的なサブスクリプションであれば、会員登録から退会までの間に、そのサービスを提供する企業にもたらす利益額となります。単純化すると、総顧客数が増え、顧客生涯価値が増えれば、ビジネス全体の価値はその掛け算で大きくなっていきます。

 次のステップとして、Outputである総顧客数や顧客生涯価値の成長につながる、Input KPIを立てていきます。KPIの立て方の解説記事で、ロジックツリーを作成し、KPIのA、B、C……の掛け算・足し算でKGIを達成する、という説明をよく目にします。私の経験からは、この手法を単純に使いすぎると、数式上は合っていても具体的な施策やビジネスの成長につながるKPIに必ずしもなりません。私は良いKPIの条件として、それが表すものが (1)ビジネスの重要な成長要因であること、(2)アクショナブルである(KPI向上のため具体的な施策を取れる)こと、(3)顧客体験の向上につながること、(4)具体的で定量的に評価できること、があると考えています。もう少し詳しく見ていきましょう。

ビジネスの成長につながるInput KPIの条件

 (1)ビジネスの成長要因であることとは、Output KPIに代表されるビジネスの目標と因果関係があることです。例えば、会員に幅広いサービスを提供するサブスクリプションがあったとしましょう。(A)顧客1人が利用するサービス数と、(B)顧客1人当たり購入金額の間に統計上の強い相関関係があり、さらに(A)が上がる結果として(B)が上がる、というビジネス上の因果関係があるとすれば、「顧客1人当たり利用サービス数」は良いInput KPIになる可能性大です。

 (2)の「アクショナブル」の意味は、そのKPIの向上のために具体的な施策(アクション)を取ることができ、KPIが自社の努力でコントロールできることです。例えば、顧客の継続率(リテンション率)は、サブスクリプション事業の成長にとって重要な要素です。継続率は、サービス利用を促すプロモーションなどの施策でコントロールすることができて、初めてKPIとして意味を持ちます。継続するか否かの顧客行動に影響を与えられなければ、数値を測定してもビジネスの成長にはつながりません。

 (4) 「具体的で定量的に評価できること」はKPIなのだから当たり前だと考えられるかもしれません。ただし、(3)顧客体験の向上と(4)を同時に満たすもの、となると、そう簡単ではありません。連載第3回で、コーヒー飲み放題のサブスクリプションを紹介しました。都会のビジネスマンを対象とする同様のサービスがあるとしましょう。多くの店で飲み放題のコーヒーが提供されることが必要ですが、契約コーヒー店の数は具体的で定量的に評価はできても、KPIとしては不十分だと考えられます。誰も行かない場所で、たまに午後だけ開いているコーヒー店がいくら増えても、良い顧客体験にはつながらないからです。「ターミナル駅から徒歩3分以内で行ける、毎日朝8時には開いている契約コーヒー店の数」をKPIとした場合はどうでしょうか。その数値を継続的に増やすことができれば、利用者が増えてビジネスは成長するでしょう。

 Input KPIは、新規顧客獲得、顧客深耕(クロスセル、アップセル)、顧客維持などのさまざまな局面について考える必要があります。さらに、KPI設定時に忘れてはいけないことは、成功の指標(Success Criteria=SC)を決めておくことです。「達成したらその施策は成功」といえる基準です。SC設定方法の典型的な例は、新規顧客の獲得コスト(Cost per Acquisition=CPA)の成功の指標を、事業の長期的利益を確保できる水準にすることです。目標CPAと顧客生涯価値については連載の次回で議論します。

第3回
サブスク事業の成功への第一歩は、「顧客に提供する価値の核心」
第5回
サブスク事業成功のために、マーケ予算はどれだけかけるべきか