※日経トレンディ 2019年1月号の記事を再構成

スタートアップ企業に大量の資金が流入する「第4次ブーム」が到来。世の中を変える革新的な技術やサービスがスタートアップから生まれる可能性がますます高まっている。特集の最終回は「スタートアップ発・新技術」。再開発によって吸引力が増す渋谷を中心に、都内各地の新興勢力と、彼らが手がける技術の中身を探った。

東京・五反田では、IT系のスタートアップの集積が進み、「五反田バレー」が発足した
東京・五反田では、IT系のスタートアップの集積が進み、「五反田バレー」が発足した

 従来、イノベーションの発信地として名をはせていたのが、IT系スタートアップが集う東京の渋谷や六本木。だが、賃料の高騰やオフィス不足で都内各地へ分散が進み、五反田や田町・三田、新宿などにも有力スタートアップが潜む。しかし2019年以降は、再び渋谷が「聖地」として存在感を増しそうだ。

 渋谷にはここ数年で、スタートアップの支援施設が続々と誕生している。17年11月には、米国発のスタートアップ支援企業Plug and Play Japanが東急不動産と組んでインキュベーション拠点を開設。「国内外のスタートアップと大手企業との協業を積極的に進めている」(代表のヴィンセント・フィリップ氏)。続く18年4月には、ビル1棟を使った起業家の交流拠点「EDGEof」も稼働。若手起業家の支援が中心のスカイランドベンチャーズとイーストベンチャーズが共同運営するシェアオフィスがあり、多数のスタートアップが巣立ってきた「新大宗ビル」も健在だ。「駆け出し起業家から巨額の資金調達をした先輩まで、多様に集まるのが渋谷の強み」と、イーストベンチャーズ・フェローの大柴貴紀氏は話す。19年にはグーグルも渋谷に移転し、「エンジニアなどの人材交流が加速する」と、渋谷に拠点を設ける朝日メディアラボベンチャーズの山田正美氏は見る。スタートアップ同士の協業が活性化し、イノベーションの原動力になりそうだ。

東京発の革新技術で生活が激変

 20年以降には、東京発の世界を根底から変えるイノベーションが多数生まれる。中でも注目なのが、「距離を越える」技術だ。VRゴーグルやグローブなどを身に着けてかなたにいる自分の“分身”を自在に操れるアバターロボットがその本命。この分野で世界をリードするスタートアップが実は新宿にある。それが、メルティンMMIだ。

 同社のアバターロボットの特徴は、人体の構造から着想を得たワイヤ駆動を採用し、極めて人に近い動きができること。18年3月に発表したプロトタイプ「MELTANT-α」は、2キログラムの荷物をつまんで持ち上げられるパワーと、ボトルキャップを開けられる繊細さを兼ね備えた手を持つ。さらに、生体信号をリアルタイムに解析し、人間の動きを遠隔ロボットに伝える画期的技術も有する。

 21年には量産機を市場に投入予定で、「まずは人間が立ち入るのが難しい宇宙や海洋といった極限地域に加え、発電所や石油プラントなどの危険現場から展開し、将来的には『遠隔観光』や『リモートワーク』など一般利用を目指す」(CEOの粕谷昌宏氏)。普及すれば人間は物理的に移動する必要がなくなり、移動にかかるコストや時間を劇的に削減可能。住む場所や体力の制約もなくなり、満員電車や渋滞、長時間残業といった社会問題は過去のものに。東京一極集中の問題も解消でき、地方活性化の特効薬にもなる。

 clusterの仮想空間イベントプラットフォームも、距離を越える画期的な技術だ。VRゴーグルやPCを使って好きなアバターで仮想空間にアクセスできる。同時に数千人が参加可能で、カンファレンスや会議などに既に利用されている。18年8月には、世界初の仮想空間での有料音楽ライブも敢行。新機軸のエンタメとして話題を集める。VRゴーグルは急激に小型化が進み、数年以内には一般的な眼鏡と同程度のサイズになるとみられる。そうなればVRデバイスは1人1台が当たり前になり、自宅にいながら誰もが仮想空間で“会える”時代が来る。

 斬新なアイデアで社会的な課題の解決を目指すスタートアップは、まだある。人手不足の解消に有効といわれるAIの分野で異彩を放つのが、身近な機器を低コストでAI化できる技術を開発するLeapMind。音声から人の感情を読み解くAIを開発するEmpathも、来るべきロボット社会のスタンダードになるはずだ。人の気持ちを察して寄り添う、真のAIアシスタントが身近になる。さらに、フードロスや食糧問題、高齢化社会などにアプローチするスタートアップにも注目だ。