データサイエンティストであり、メガバンクや経営コンサルティングファームで経験を積んだ「プロ経営者」でもある一休の榊淳社長。膨大なデータに基づき日々実践するデジタルイノベーション経営と、その裏にある独自の思考法を明かす。

榊 淳(さかき・じゅん)氏
一休社長
1972年、熊本県生まれ。慶應義塾大学大学院理工学研修科終了後、第一勧業銀行(現みずほ銀行)入行。米スタンフォード大学大学院にてサイエンティフィック・コンピューティング修士課程修了。ボストン コンサルティング グループに入社し、約6年間コンサルタントとして活躍。2009年よりアリックスパートナーズ。13年一休入社。PL責任者として宿泊事業の再構築を担い、14年副社長COO就任。16年2月に創業社長・森正文氏の退任に伴い社長就任

うちでは毎週月曜日の早朝に経営会議を開いていますが、その場で業績の話をすることはありません。

 なぜか。社内データベースに入っている数字を毎週日曜日に、僕自身が、細かく分析して全社に報告しているからです。先週の取扱高はこうだったとか、どのチャネルから、どういう属性のお客さんが入ってきて、CVR(コンバージョン率)はどうだったか。気になる動きがあったら、その理由をデータから見つけ出して、僕が報告書にまとめて役員や社員へ、送っています。

 (報告書は)パワーポイントで50枚くらい。社員なら誰でもアクセスできる共有フォルダに入れておきます。

僕が作った報告書を見れば、前週何が起こったのか、という事実ベースが分かる。資料を見れば分かることを、時間をとって報告したりしても仕⽅ない、と思います。

 最近は業績データを(分析ツールの)「Tableau(タブロー)」などに入れている会社が多いようです。たぶん便利なツールなんでしょう。うちでも使っている人はいますが、私は使っていません。生データを見て、例えば関東地区で30代のリピーターの利用率が2.7%増えた。一方で関西地区では、0.3%落ちているといったことに気がついても、それがなぜか。その理由をTableauは教えてくれないからです。

 なぜそのようなことが起こっているのか、という問いに向き合うと、結局、データベースに入っている生データを細かく見る必要があります。

何が起こったのかという事実ベースは誰が見ても同じなので、会社で誰か1人やればよい、と思います。私がたまたま必要なスキルを持っていてデータ分析が好きだからやっています。社員に数字の報告をお願いすることがなくなるので、これが会社のコスト的にも最も安いし、一番合理的なんです。

 実際、データを見ていると、いろいろなことが見えてくる。SEO(検索エンジン最適化)施策やリスティング広告など、施策・チャネル別のCVRやROIなど。それらが前週と比べてどう変化したのか。

 数字が想定外の動きをしていたら、その裏には絶対に原因がある。データを細かく見ていけば、何となくそれが分かってくる。それなりにコストをかけて打った施策なのに期待したほど効果がないとすれば、「たぶん競合が何か仕掛けてきたな」とか。

 社員はこの報告書を月曜の朝に見て、対応策をそれぞれが考えます。全社に影響がありそうな課題については、僕から声をかけて、対応を聞くこともあります。大半は各自にお任せです。何が起こったのかという事実を明らかにして共有するところまでが私の業務です。それに対してどのような施策を実行するのが良いかを考える最もクリエイティブな業務は各チームや社員にお任せしています。

第2回
新規客と既存客、一方を選べ 一休社長の「成功戦略」
第4回
経営が分からないデータ分析者は活躍できない 一休社長の真意