中小企業がデザイナーと組んで開発したヒット商品、ウエアラブルメモ「wemo」。腕に巻いて使用するシリコンバンド型のメモが、マーケティング予算が限られているにもかかわらず、発売以来1年間で10万本の受注を獲得。海外でも販売が決まった。現在進行形のプロジェクトの全貌を追う。

 前回は、wemoのターゲット設定と展示会の反響を踏まえた事業プランについて書きました。今回はターゲットへのアプローチ手段をいかに獲得するかという工夫についてお伝えします。

【2017年7月25日 @kenma】

 先週のミーティングで、狭く堅くBtoBチャネルで攻めるのではなく、BtoC向けチャネルで広くアプローチすることに決まった。とはいえ、ターゲットは「現場最前線のワーカー」であることに変わりはないため、各業種のニーズを検証しておく必要があった。

 既に知人・友人を介して、各業種で働いている個人にアプローチすることはできていた。しかし、もう少し大きな組織やチーム単位での導入に可能性があるかどうかを知っておきたかった。例えば、訪問看護ステーションの備品として導入してもらえるか、といった内容である。

 こうなってくると、知り合いの紹介だけでは限界が生じ、もう少し異なる手法が必要となる。そのようなときに考えるのが、「自分たちが手に入れたいものを既に持っている企業や組織はいないか?」。そして「その企業や組織にメリットを提供できるか?」である(詳細は後段「ビジネスデザインの引き出し」『Partnering Design』参照)

 とりあえず、アクセスできそうな企業や組織をリストアップしてみる。残念ながら、医療施設の責任者クラスにつながるコネクションはほぼ皆無だった。そのような中、1人の方に目が留まる。wemo に目盛りを入れるアドバイスを頂いた「一般財団法人在宅ケアもの・こと・思い研究所」専務理事の森田朝子さんである。(連載第5回参照)。

 この財団は、「在宅ケアにおける日用品や福祉用具、医療機器や道具類について、改良および仕様の工夫、アクセシビリティー配慮の普及・標準化」を目指して活動しており、病院や訪問看護ステーションとのつながりは非常に強い。wemoはこの財団が目指している製品だと言ってもいいので、ヒアリングや導入テストをお願いする現場を紹介してもらえるのではないかと思った。

 早速連絡を取り、後日訪問することになった。

【8月7日 一般財団法人在宅ケアもの・こと・思い研究所 訪問@水道橋】

 専務理事の森田さんを訪問。「国際 文具・紙製品展」での反響の大きさを報告し、wemoの実物サンプルを手渡す。目盛り入りがとても好評だったことを伝えると、とても喜んでいただけた。

 早速本題に入る。現状の課題として、個人単位でのニーズはある程度把握できたが、組織単位がまだ未検証であること。組織単位の検証を進めたいがアクセスできる先がないことを話す。

 その一方で、wemoを財団でサポートするメリットも伝えた。財団の活動をより加速させるためには、分かりやすい成果が必要であること。wemoにはそのポテンシャルがあり、既に森田さんの支援を受けているため、財団の実績とするにふさわしいことなどをお話しした。

 森田さんの反応はとても良かった。財団の概要を説明をするときに手に取れる製品があったほうが話しやすいと、常々思っていたそうだ。

 ヒアリングや製品の導入テストをしてもらえる医療現場も、問題なく紹介できそうだと返答を頂いた。既に幾つかの訪問看護ステーションと同様の取り組み実績があり、とても円滑に進みそうな様子であった。

 まずは財団内で承認を取るということで、具体的な進め方は次回に、ということになった。

図1:財団の協力を得て作成した製品使用イメージ (C)kenma Inc.
図1:財団の協力を得て作成した製品使用イメージ (C)kenma Inc.

【8月21日 @kenma】

 その後、財団から連絡があり、医療現場については正式に紹介してもらえることになった。同様のアプローチで、医療以外の業界へもアプローチしたいと思っていたところに、1つアイデアが浮かんだ。

 その業界とは、農業である。もともと知り合いの農家からwemoを使いたいという声はいくつかもらっていた。ただ、医療現場と同様、個人ではなく組織単位の導入の可能性を検証したかった。

 アイデアの発端はクライアントのブドウ農家からの相談だった。農場管理アプリを活用し、生産性向上に取り組むのだが、そのプロジェクトでwemoを試してみたいという依頼であった。

 話を聞くと、現場作業者がその場でいろいろとスマホ入力しなければならないが、わざわざスマホを取り出すのは面倒だ。まずはwemo にメモするところから始めたいとのこと。我々としては願ってもないニーズであった。

 そこでひらめいたのが、その農場アプリの開発会社を通して、規模の大きい農業法人にアプローチする手法である。農場アプリ会社にwemoを提供し、入力支援の改善に関心の高い農業法人に試してもらう。その法人を我々に紹介してもらい、ヒアリングなどを実施する。こういう流れを考えた。うまくいけば、アプリ会社自体が販売チャネルになる可能性も秘めている点も魅力的である。

 そんなことをたくらみながら、ブドウ農家に早速相談し、この試みも進めることになった。

図2:wemoのヘビーユーザーの農家に送ってもらった写真 (C)kenma Inc.
図2:wemoのヘビーユーザーの農家に送ってもらった写真 (C)kenma Inc.