中小企業がデザイナーと組んで開発したヒット商品、ウエアラブルメモ「wemo」。腕に巻いて使用するシリコンバンド型のメモが、マーケティング予算が限られているにもかかわらず、発売以来1年間で10万本の受注を獲得。海外でも販売が決まった。現在進行形のプロジェクトの全貌を追う。

 前回は、「wemo」の前身アイデアである「hadamemo」を、「東京ビジネスデザインアワード(TBDA)」に応募するまでの経緯を書きました。今回はTBDAの最終審査会準備を中心にお伝えします。

【2016年11月22日@気仙沼】

 出張先の宮城県・気仙沼での会議が終わり、メールを確認しているとTBDA事務局からの「提案審査結果についてのご連絡」が目に入る。早速内容を確認すると、応募案がテーマ賞に内定したとのこと。前職を10月末で退職し、11月からkenmaに専念して新たなスタートを切ったところだったので、この吉報はとてもありがたい。そのうれしさをかき消すように頭をよぎったのは、「どうやって事業化しようか…」ということだった。

 会議終了後には会食が予定されていたので、海鮮料理とお酒を楽しんで事業化の不安は忘れることに。2軒目のお店ではこの吉報を話し、参加者の方々に祝ってもらった。ただ、「hadamemo」のアイデアに対してはピンと来ない様子。幸先良いのか、悪いのか…。

【12月6日@日本デザイン振興会】

 TBDAで協働することになったコスモテックとの初顔合わせに、メンバーと共に参加。コスモテックからは、社長の高見澤友伸さん、営業部長の下山卓紀さんが参加。お2人とも気さくな方で、一安心。事務局による進行の下、我々の応募案を選んだ理由をフィードバックしてもらう。

 コスモテックが事務局から応募案を提示される直前に、医療関係者と「肌用転写シール」の商談を行っていて、そこで偶然にも「シールにメモができたら」という話をしていたとのこと。ただ、具体的にイメージすることができず、それほど気にも留めていなかったのだが、hadamemoの応募案が現れ、何か運命を感じていただけたらしい。

 特に問題なく、両社で事業化を進めることに合意し、まずは最優秀賞/優秀賞を決める2017年1月末の最終審査会に向けた準備の説明を受け、その日は解散した。

【12月8日@デザインハブ(東京ミッドタウン内)】

 テーマ賞内定企業/デザイナーを対象にしたレクチャーがあり、メンバーと共に参加する。講師は、TBDA審査員でプロダクトデザイナーの廣田尚子さんと、弁理士の日高一樹さん。

 廣田さんのレクチャーは「企業とデザイナーの協業」について。過去4年のマッチング事例を基にした、協業の成功/失敗ポイントのレクチャーがとても参考になる。メーカーに向けて「投資」や「チャレンジ」の必要性を説いてもらえたのはとてもありがたい。また、事業化をスタートするに当たって、契約を結ぶことの重要性を何度も話されていたのが印象的だった。

 日高さんのレクチャーは「知財戦略」と「デザイン契約」の2本立て。前者については初歩的なところから始まり、実際に事業化を進めていくに当たってどのような権利申請が必要になってくるかといったレクチャーがあった。やるべきこととやらないことのリスクが明確になり、今後の意思決定がしやすくなったと思う。

 このレクチャーを受けた後、契約に関する詳細な解説があった。メーカー・デザイナーのどちらかに偏らず、両者の視点からの解説があり、とても勉強になった。契約書を結ぶ際には、日高さんに第三者的立場で作成をサポートしてもらえるとのことで、とても心強い。当然ながら通常は2社間でのやりとりになるので、この契約書作成サポートはありそうでない支援だと思った。

 また、手始めに最終審査会までの仮契約を結ぶ指導があり、仮契約書の雛形も用意されていた。用意周到なプロセスにTBDAの事業化支援に対する本気度が伝わってきた。

 半日拘束されることに当初はネガティブだったが、受講してよかったと心から思う。気を付けるポイントや知識を得られたことももちろんだが、コスモテックと一緒に参加できたことが一番のバリュー。共通の価値観を協業前につくってもらえたのは本当にありがたい。TBDAからのサポート体制が充実していることが分かったのも収穫だったので、活用方法を早速検討したい。この協業前の事前講義は、他のマッチングプログラムでもぜひ取り入れてほしいと思った。

図1:レクチャー時に配布された資料(C)kenma Inc.
図1:レクチャー時に配布された資料(C)kenma Inc.

【12月15日@コスモテック(東京都立川市)】

 最終審査会に向けて、キックオフミーティングを実施。主なアジェンダはhadamemoの試作について。まずは肌用転写技術を活用した傷を隠すためのシールに全員で書いてみる。以前試したときより書き心地がよいことを期待したが、あまり変わらない。「ペン先が引っかかってスムーズに書けない」ことが全員共通の感想だったので、この点に絞って改善を進めてもらうことになった。

 その場でも、高見澤さんと下山さんが改善の方向性について話し始めて、専門用語が飛び交う。ほぼ理解できなかったが、いくつか検証すべき仮説が明確になったようで、とても頼もしく思った。こういう場面を目にするたびに、ものづくり企業への尊敬の念が深まる。

図2:肌用転写技術を活用したテープ。傷が隠れる優れもの (C)kenma Inc.
図2:肌用転写技術を活用したテープ。傷が隠れる優れもの (C)kenma Inc.