利用者のコアゾーンは全くの想定外

クロサカ:1年間やってこられて、うまくいっていると思うことと、あとやっぱり難しいなっていうことを教えて下さい。

古里:まず、実績として、加盟店は18年11月末時点で824店舗、契約済みで準備中の店舗まで入れると866店舗。2市1村の域内事業所数ベースで、鉱工業を除くと、18~19%のシェアです。高山市内であれば結構どこでも使えるという感じにまでなってきています。累計取引金額は4.6億円で、それほど大きくはないですが、域内の経済流通3~4%ぐらいを担っています。

 一番苦労しているのが、ユーザー獲得です。1年目の目標を1万人と掲げていたのですが、18年11月末時点で約5700人と、半分ぐらいの実績です。地域の人口が11万人強ですから、子どもとお年寄りを除いた、活発に経済活動をしている人たちを母数に取ると、まだ6~7%ぐらいの数字です。

筆者(右)と古里圭史氏

クロサカ:事前の予想通りだったところ、または違ったところはありましたか。

古里:今まで我々に見えなかったトランザクションのデータをちょっとした切り口で見るだけでも、面白い知見が得られています。例えば、当初想定していた利用者のコアゾーンは30代から40代ですが、実際には50代、60代の女性が決済件数と金額ともに一番大きなコアゾーンだったんですね。年配の方はあまり使わないと予想していたので、これは驚きました。

クロサカ:その原因は分析されましたか。

古里:1つは、やはりプレミアムです。さるぼぼコインをチャージすると1%のプレミアムが付くのですが、それをお店で使うと、さらにお店独自のポイントも付いて、二重にお得です。そうしたことに主婦層は非常に敏感で、「現金よりも、さるぼぼコインで1%もらったほうが絶対いい」と、皆さんどんどんポイントを使われています。

 加えて、大手の決済サービスは違って、日常の買い回りのお店で使えることが大きいと思います。従来は地元のお店でクレジットカードがほとんど使えず、皆さん現金で買い物しておられた。でも、さるぼぼコインは近所のおじいちゃん、おばあちゃんがやっている商店でも導入していただいているので、この経済圏でポイントも付くこともあって、利用していただいている。

クロサカ:なるほど。今の2つのお話から想像すると、おそらく「ゲーム感覚」がカギになっているのではないでしょうか。

 よく言われることですが、ポイントエコノミーには経済合理性がありません。それでも利用されているのは、「1%のおトクを得るゲーム」になっているから。加えて、さるぼぼコインの場合、ご近所でできる点が大きい。「ポケモンGO」ならぬ、「さるぼぼGO」みたいな感じです。

古里:そうなんです。経済合理性はある意味で理屈であって、むしろ「楽しい」という要素が動機の肝になるんだと感じて思い始めたんです。ポイントの多寡だけでいえば、使える場所が違うにせよ、大手の3%付くようなサービスを使うだろうと思っていたのですが、意外にさるぼぼコインを使っていただける。

 ユーザーから、使う体験自体がちょっと楽しいと言われたこともあり、次のフェーズではゲーミフィケーションの要素をもっと入れていこうと考えています。

地産地消にはAmazon Goより静的QRが向く

古里:消費動向が変わってきている手応えも感じています。「今までは域外のスーパーへ行っていたけど、さるぼぼコインが使えるから地元のスーパーで買おう」という人が実際にいる。その人たちは本質的に地域の中でお金を回すことを大事だと考えているわけではないですが、ともかく地域に誘導できている手応えとしてあります。

 それに1年間やってきたことで、静的QRを使った決済体験がしっかり地域の中に浸透している。そういう地域って、日本では珍しいと思います。

クロサカ:FeliCaに比べると、特に静的QRは、決済手段としてひと手間かかります。でも、そのひと手間をむしろ面白さや愛着に読み替えられるというお話を以前うかがった時に、コロンブスの卵のような感覚でした。

 決済手続きがあまり簡単過ぎると、「買い物している」という感覚が薄れていく。その究極がAmazon Goです。「Amazonでポチる」とよく言いますが、Amazon Goは「ポチ」さえしない。それはそれで買い物の効率化を図る機能としては面白い。

 一方で、地元の人と密に顔を合わせながら地産地消をしていくときには、むしろ「もらう」「渡す」の関係が明示されていたほうがいいのかもしれません。

古里:地元の小中学校や高校からも、さるぼぼコインを教育に使いたいっていうお話が来ているんです。

 実証実験で使ったシステムを残してあるので、「バーチャルさるぼぼコイン」みたいなことがすぐにできます。そこで高校生に100万さるぼぼコインを渡して起業体験をしてもらったり、もっと小さい世代ならお店屋さんごっこでスマホ決済を体験してもらったりしたら面白いんじゃないかと考えています。

クロサカ:高校の文化祭に、さるぼぼコインを導入したらどうでしょう。高校生ならアルバイトもできる年齢だし、倫理観も大丈夫でしょうから。そういうステップがあって、最後は地域経済の枠組みの中に自然と入っていく体験ができると、とても面白いですよね。

古里:それは面白そうですね。

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