「ビジネスの最大の障壁は、経営者の『常識』である」

 星崎氏が常に胸にとどめている持論だ。ビジネスの転機で最後に必ず立ちはだかるのは、業界慣習にとらわれた経営者自身という皮肉。確かに、肉を切らせて骨を断つ決断は難しい。それでも、メガネスーパーの劇的なV字回復という結果を前にすれば、紛れもない真実だ。

 こんなこともあった。14年3月から始めた「コンタクト定期便」は、2週間交換タイプなどのコンタクトレンズを初回購入した後、申し込むと、店舗に行かなくても定期的に商品が自宅に届くというもの。それまでの常識からすれば、店頭で対面接客しないと顧客のつなぎ止めができないという理由で排除されてきた。これを星崎氏は「ただのイリュージョン」と一刀両断にする。

 それにはワケがある。もともとコンタクトレンズという商材は、どこで買っても同じもの。顧客のロイヤルティーはそれほど高くない。実際、調べてみると、来店してコンタクトを購入した顧客は、およそ5割が“脱落”して他店に流れていた。ならば、“入り口”さえ固めて新規をしっかり獲得すれば、後は自宅に届くほうが顧客にとっても利便性が高いし、定期便の仕組みなら長くつながれる。しかも、コンタクトレンズ購入者との接点をなるべくコールセンターに移すことで、店舗スタッフは付加価値の高いメガネの販売に力を注げる。そんな目論見だ。

 この決断をするには、各店に十分な在庫を用意して、コンタクトレンズの新規客に初回分を即日渡しできる体制を整えることが肝になる。通常の経営者なら在庫リスクを懸念して選択しづらいプランだ。しかし、星崎氏は躊躇することなく各店に1500箱ほどの在庫をそろえた。もちろん、単品管理の仕組みを導入して、在庫コントロールを精緻に行える体制を整えたうえでだ。その結果、在庫リスクを抑えながら、コンタクトレンズ事業は毎年20%以上の販売増を記録。新規客を効率的に刈り取っているうえ、コンタクト定期便の利用者は実に95%のリピート率を誇るという。

 また、当初コンタクト定期便を解約するには1年経過後などの“縛り”があったが、星崎氏はこれを撤廃。いつでも解約可能にした。「エントリーでお客さんの気持ちがすごくラクになるし、いつでも解約できると思うと、逆に解約する人は少なくなる」と星崎氏。先述のHYPER保証プレミアムもそうだが、消費者心理を捉えた“逆張り”が実に巧みだ。

 こうしてすべてが好回転し始めたメガネスーパーは、すでに3期連続で黒字を達成。さらなる成長の軸となるのが、17年11月の高田馬場本店を皮切りに出店・リニューアルを始めた次世代型店舗だ。18年10月末時点で全国約400店舗のうち15店舗が次世代型に切り替わっており、今後数年で100店体制を目指す。

次世代店舗で提供するアイケアリラクゼーションの様子
次世代店舗で提供するアイケアリラクゼーションの様子

 次世代型店舗は、アイケアカンパニーとしての集大成のような店だ。前述のトータルアイプレミアム検査のように精緻な検眼を行う他、落ち着く香りが漂うゆったりとした空間のなかでアイケアリラクゼーション(1回10分1000円)も受けられる。顧客がリラックスできるうえ、視力検査前に眼の周辺を集中ケアすることで精度の向上が見込めるという。また、5.1チャンネルのサラウンドシステムを導入してリアルな生活環境に合わせて試聴できる補聴器サロンも完備している。

 この次世代店舗の稼ぐ力は圧倒的だ。例えば、高田馬場本店の18年5月~7月の実績では、新規客数が前年同期比で約4倍に膨れ上がり、メガネの平均販売単価は改装前の約3万9000円から約5万2000円にまで1万円以上も跳ね上がった。きめ細かな接客をするぶん、高単価なプレミアムレンズの販売比率が約9%も向上している結果だ。また、補聴器の平均販売単価に至っては約9万9000円も上がっている。このように次世代店舗のほぼ全店が好調だ。

 また、新たな収益源として成長著しいのが、リラクゼーションのような付加サービス。施術を行うのは専用の研修を受けた既存の店舗スタッフ、スペースも店舗内なので、大きな先行投資は必要ない。それ故、既に200店以上に広げており、月200万円以上もの利益をたたき出しているという。メガネスーパーの顧客層は40歳以降が7割を占めており、リラクゼーションとの親和性も高い。これを400店舗近くあるメガネスーパー全店で本格展開すれば、即座に大手リラクゼーション・チェーンの一角に躍り出ることになる。

 同じように、メガネスーパーでは目薬をはじめとして鎮痛剤やアレルギー薬などの一般用医薬品(OTC)の販売も一部店舗で始めている。既に第2類、3類のOTC医薬品を扱える登録販売者が社内に100人以上おり、実は星崎氏が同社の第1号資格取得者だという。メガネスーパーは検眼を含めて顧客の滞在時間は1時間に及ぶこともざら。眼の健康から入って、顧客のさまざまな悩みに応えようと、ビジネスの領域が広がるのは自然だ。眼に関する専門性と強い顧客接点を武器にドラッグストアの領域をも侵食し始めている。

 競合のメガネチェーンが前年実績を下回ることが多いなかで、メガネスーパーは16年2月以降、直近の9月まで、既存店売上高が32カ月連続で100%を超え続けている。同時に積極的なM&Aで地方のメガネチェーンを続々傘下に収め、勢力を拡大。この快進撃は止まりそうにない。

(写真/高山 透)