「遅れまい」と思った会社はもう遅れている

 そもそも、これらの用語の多くは、昔からある概念とほぼ同じものを、時代に合わせて言い換えただけのものだったりします。そうした用語を企画に取り込んだところで、言葉として新しいだけで、新しいビジネスは生まれません。たとえ、新しいコンセプトを表す“真に”新しい用語であったとしても、どこかで目にしたものを「これをキーワードにしよう!」と思って取り入れた時点で、その会社はフォロワーにしかなり得ない。イノベーターにはなれないのです。

 はやりのキーワードを企画書に並べたがる企業は「(時流などに)遅れまい」と思っているのでしょうが、その時点でもう遅れています。そうした会社では、経営幹部が「うちもフィンテックで何かやらないと」などと言ってしまう。本来はその「何か」が最初にあり、それを実現するためのフィンテックなのに……思考停止の極みです。

 理想は、自分たちが世の中に提供したい価値を追求し、ユニークなサービスや製品を生み出したことで、そのサービスや製品に絡んだ語句が注目されることですよね。期せずしてはやりのキーワードを生む、もしくは知らず知らずのうちに先取りしているという状態です。

 日本企業でいえば、通信販売大手のジャパネットたかたが好例でしょう。創業者の高田明氏が特徴的な高い声と方言交じりの熱っぽい口調で商品を宣伝したことが、売り上げ増加や会社の知名度向上につながりました。高田氏は販売側でありながら、最近の言葉でいうアンバサダーマーケティングに近い効果を発揮していたと思います。そんな言葉がなかった時代に始めて、成功しています。

今はやっているものの先を見る

 もっとも、だれもが高田さんになれるわけではありませんし、はやりのキーワードを無視してかかればいいというものでもありません。

 ではどうすればいいか。アニメーションスタジオの米ピクサー・アニメーション・スタジオのやり方が参考になると思います。ピクサーには「Collective Creativity(集団の創造性)」を高めるための3つのルールがあります。1つ目は、だれもがだれとでも自由にコミュニケーションできること。2つ目はだれでも気兼ねなくアイデアや意見が言えること。そして3つ目が、イノベーションの最新情報を常に把握することです。

ピクサーには重視する3つのルールがある
ピクサーには重視する3つのルールがある

 イノベーションの最新情報を把握するのは、技術トレンドを注視して、その先を見るためです。現在のトレンドがこの先、世の中に何をもたらしそうか、自分たちのビジネスにどう生かすと新しい価値を提供できるのかを想像する。ピクサーはそれを徹底して現在の成功を収めています。はやりのキーワードを企画書に詰め込んだだけで先進的な気分になってはいけない。何がはやっているかを知ることは、創造を始めるほんの入り口でしかないのです。

 また、トレンドを取り入れるときは、自分たちが提供したい価値がまず先にあることが大前提。そして、世間ではやっている用語をそのまま用いるのではなく、一度自分の言葉に置き換えてみてください。小学生や中学生に伝えるつもりでシンプルな言葉に置き換えてみる。それができれば、自分も理解を深めることができるし、仕事仲間とも考えを共有しやすいはずです。

 僕が米アップルで携帯音楽プレーヤー「iPod mini」のマーケティングに携わったときは、まさにこれをやりました。カスタマーエクイティを構成する3つの要素――ブランドエクイティ、バリューエクイティ、リテンションエクイティ――を「やっぱり・なるほど・ずっと」と置き換えて社員に伝えたのです。みんなで考えを共有し、行動を起こすのに役立ったと思っています。言葉は咀嚼(そしゃく)し、自分のものにして使うことが大切なのです。はやりのキーワードを唱えているだけでは何も変わりませんよ。

(構成/赤坂麻実)