※日経エンタテインメント!2019年1月号の記事を再構成

プレゼン会場で「本当に世の中の文字は、小さすぎて読めない!」と怒る渡辺謙。そこに商品を掛けた菊川怜が登場して、「はっきりきれいに見える!」と訴求。最後にお尻で踏んでも壊れないパフォーマンスを披露すると「さすがメード・イン・ジャパン!」と渡辺が声を上げる……。2018年を代表する話題作がハズキルーペのCMだ。

松村会長が総監督したCM第1弾。渡辺謙は撮影前に2日間ホテルにこもり演技プランを練ったという。このCMのクリエイティブディレクターになったのは、Hazuki Company 代表取締役会長 松村謙三氏。1958年生まれ、大阪府出身。証券会社を経て、プリヴェチューリッヒ企業再生グループ(現プリヴェ企業再生グループ)設立。50社を超える企業買収で急成長を遂げる。経済同友会委員のほか、大阪大学大学院法学研究科や大阪大学知的基盤総合センター客員教授も務める

 ハズキルーペは、Hazuki Companyが販売するメガネ型拡大鏡。初代キャラクターに石坂浩二、2代目に舘ひろしを起用し、シニア向けの落ち着いたCMを放送してきたが、18年4月に渡辺と菊川を起用し、イメージを覆した。自らクリエイティブディレクターとなって指揮を執ったのは、同社代表取締役会長の松村謙三氏だ。

 「渡辺謙さんにはずっとCMをお願いしたいと思っていて、それがかないました。しかも『僕ならこういうCMにしたい』というアイデアを送ってくれたんです。『スケジュールや企画書の文字が小さい』など箇条書きで書かれてあって、面白いと思いましたね。そこで広告会社のクリエイターに『これをベースに、怒りをテーマにCMを考えてください』と頼んだのですが、上がってきたのは、例えばミラノ駅で謙さんがハズキルーペを掛ける、みたいな企画。どこにも怒りの要素がない。さらに別のクリエイターに依頼しても、企画に怒りが1つもなかった」

 あきれた松村氏は「もう、自分でやる」と宣言。自らペンを取って構成やセリフを考え、総監督として撮影現場に立った。こうして作り上げたCMが話題を呼び、CM総合研究所発表のCM好感度ランキングで総合5位に入るヒットとなった(5月度)。

 第2弾に起用したのが「ドラマ『黒革の手帖』を見てファンになった」という武井咲だ。「僕が『黒革の手帖』をモデルにしたいと言ったら、広告会社から『テレビ朝日や武井さんの事務所が絶対にOKしない』と言われました。でも、言ってみなきゃ分からないじゃないですか」。当たってみると許諾が取れ、小泉孝太郎と舘ひろしをクラブの客役に配したCMを制作。10月から放送するとauやソフトバンク、NTTドコモの通信大手3社をおさえて、全4135作品を対象にした作品別好感度ランキングで1位に輝いた(10月度)。

CMは商品を売る「作品」

 ヒットの要因は、さまざまな面での「規格外」に尽きるだろう。15秒や30秒のCMが多いなか、商品の特性を伝えるために60秒で制作。CMでは珍しい「怒り」や「お色気」を含んだ表現や、出演タレントに商品名を連呼させ、「ハズキルーペ、大好き!」とまで言わせるところも規格外だ。

菊川怜は10月にソフトバンクCMでも「尻踏み」を披露して注目を集めた

 「ほとんどのCMで、商品名や機能を言うのはナレーターじゃないですか。それは広告業界の人が『タレントに言わせられない』と忖度(そんたく)しているから。僕みたいなド素人は『何で?』と思っちゃうんですよね。それに私どもはテレビCMの宣伝広告費に年間100億円以上かけています。60秒CMなので、1秒に換算すると約2億ですよ。何秒もミラノ駅の風景を見せてどうするんですかって話です」と松村氏。

 ただし、CMを「作品」と捉え、クオリティーにはこだわったという。「映像は武藤眞志さん(安室奈美恵やglobeのミージックビデオで知られる監督)、音楽はデュラン・デュランのパートナー、CGは『アイアンマン』のチーフCG担当にやってもらいました。名画のように、何度見ても耐えられる“作品”を目指しました」。

 取扱店舗は毎月3000のペースで増加し、現在4万6000店舗に拡大。ソフトバンクCMが「尻踏み」でコラボを申し出るなど、波及効果も“規格外”のCMだ。

■変更履歴
好感度ランキングの記述に誤りがありました。お詫びして訂正します。[2018/11/21 12:00]
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