意識したのは家族の「キャラ立ち」

 佐藤由紀夫氏は美大卒業後、91年に電通入社。アートディレクターとして採用されたが、「CMが好きだから」と2年目にはプランナーに転向した。そして96年に企画を手掛けたのが、サンギの「アパガードM」。東幹久と高岡早紀がハワイで「芸能人は歯が命」と笑うこのCMは同年の年間好感度ランキングで10位に入った他、ACC賞なども受賞して大ヒットした。さらに97年には篠原ともえ出演の、たかの友梨ビューティークリニック「ココロノウサギ」編がヒット。現在は、電通クリエーティブ・ディレクション・センター長を務めている。

 「CMを作る上で大事にしているのは、『キャラ立ち』です。『バガボンド』『SLAM DUNK』などの漫画家・井上雄彦さんが『キャラクターがいれば、ストーリーはいらない』とおっしゃっていたんですが、僕も同じ考え。このキャラクターはどんな人なのか、15秒で視聴者に分かってもらうことが大事だと思っています。

 例えば最近は、娘がドSで、お父さんがドMという関係がトレンドみたいになっている気がするんです。お父さんは娘からないがしろにされていて、でも娘の言うことは絶対に聞く(笑)。そういう関係性が見えてキャラが立てば、視聴者は画面に引きつけられて、そのCMが好きになる。そういう計算のもと、『食欲全開』では杉咲花ちゃんをドSに、ぐっさん(山口智充)をドMのキャラクター設定にしました」。

 新シリーズ「中華が家族を熱くする。」では「家族」のキャラ立ちを考えたという。

 「リアリティーを追求すれば、今の時代に7人家族は多いと思うんですけど、それくらい増やした方がマンガっぽくなって、『家族』というキャラクターがガッと立ってくる。これだけの大家族でワーワーすると『中華っぽい』というところにつながるし、家に帰るとみんながいて、ご飯が楽しいっていう『共食価値』にもつながるのではないかと思いました」。

タレントを見極めて「顔になってもらう」

 そうして5人兄妹の長男役に竹内涼真、長女役に浜辺美波を起用する。このキャスティングをしたのは竹内が17年10月期のドラマ『陸王』に出演する前で、「社内にもまだ竹内くんのことを知らない人が多かった」と原口氏。また、浜辺も初主演映画『君の膵臓をたべたい』が公開されたころで、ブレーク前夜での起用だった。

 「竹内涼真くんはメジャー感があって明るく、曇りの部分があまり感じられないところが商品に合っていると思いました。浜辺さんも明るく、万人に好かれるタイプ。2人ともまだ今ほど世に出てなかったんですが、『ブレークしそうな一番いいタレントを使おう』ということで採用になりました。企業には、まだあまり売れてないタレントに懸けることに抵抗がある方が多いんですが、味の素さんは『このCMで育てようという』希有なクライアントさんなんです」(佐藤氏)。

 味の素がブレーク前のタレントに懸けた理由はシンプル。「長くブランドの顔になってもらいたいから」だ。

 「例えば杉咲花ちゃんは昔、バラエティー番組に出たりすると、『回鍋肉の子だ!』と言われたりしていたんです。それは彼女を見たら、クックドゥを思い出してもらえるということ。そういうことが非常にありがたいので、長くブランドの顔になってほしいんです。今回は久々にタレントを変えるということで、また長くブランドの顔になっていただける方がいいと思いました」(原口氏)。

 起用の際にはもう1つ、ポイントにしたものがあるという。後編では「食」のCMならではの起用理由や、「おいしそう」と胃袋を刺激するCMの作り方などを紹介していく。

(写真/中川真理子)